2025年1月2日にマサチューセッツ州ケンブリッジにあるハーバード・スミソニアン天体物理学センターの小惑星センター(MPC)が新たに小惑星を発見し、「2018 CN41」と名付けたことを発表しました。この小惑星は地球から15万マイル(約24万km)以内に軌道を持つ地球近傍天体(NEO)であるとされていましたが、発表後に小惑星ではなく車だったことが判明し、登録が取り消されたことがわかりました。
ハーバード・スミソニアン天体物理観測所小惑星センターは太陽系内の新しい小惑星や彗星、その他の小天体の観測や報告を行う機関です。今回発表された小惑星は、トルコのアマチュア天文家が自前で開発したソフトウェアを使って特定されたもので、世界中の天文台が公開している天体観測情報から小惑星や小天体を探す作業の中で発見されました。
天文家は観測結果に合う軌道を計算した結果、この天体の地球からの最小軌道交差距離が非常に小さいことが判明。これはつまり、地球の軌道に接近し、地球近傍天体になる可能性があることを示します。
天文家は予想外の発見に喜んで、この天体をMPCに報告。その結果、この報告内容が受け入れられ、小惑星として認められることとなりました。
しかし、天文家はMPCの公式サイトで3Dで描かれた軌道を見て、疑問を抱き始めたとのこと。天文家によれば、発見した天体の軌道はホーマン遷移軌道を使って火星に向かう宇宙船の軌道に似ていることに気付いたそうで、地球に最も接近する日と火星に最も接近する日を調べ、それらが既知の惑星間ミッションと関連付けられるかどうかを確認したとのこと。
その結果、天文家は自分が発見した天体が2018年2月にフロリダ州のケネディセンターから打ち上げられたFalcon Heavyの1段目だったことに気付きました。
このFalcon Heavyには、チェリーレッドのテスラ・ロードスターが乗っていました。このテスラ・ロードスターはSpaceXとテスラのCEOであるイーロン・マスク氏の所有車で、「スターマン」と呼ばれる宇宙服を着た人形が座らされていました。スターマンの乗ったテスラ・ロードスターはそのまま火星に到達する予定でしたが、再点火で予想以上に加速してしまった影響でスピードが出過ぎてしまい、火星の軌道を通り越して小惑星帯に到達してしまいました。
この時、MPCは「sat_id」というルーチンを使用してスターマンのテスラ・ロードスターを追跡していたそうですが、その後追跡されなくなり、MPCによって観測結果がアーカイブされたとのこと。さらに、スターマンのテスラ・ロードスターは地球ではなく太陽を周回する軌道に入ったため、これまで捕捉される機会もありませんでした。
天文学関連のニュースサイトであるAstronomyは、「地球の周回軌道を越えた範囲で宇宙船を運用する国や企業の透明性が欠如している」と指摘し、今後さらに深刻化する問題の象徴であると述べています。
ハーバード・スミソニアン天体物理学センターの天文学者であるジョナサン・マクドウェル氏は「こういった宇宙船をもし野放しにしておくと、追跡されていない物体の数が増え、地球を潜在的に危険な小惑星から守る取り組みの妨げになる可能性があります。また、観測努力の無駄にもつながり、数が多ければ地球近傍小惑星の統計分析に支障をきたす可能性もあります。最悪のケースだと、小惑星を調査するために10億ドル(約1560億円)を費やして宇宙探査機を打ち上げ、小惑星に着いて初めてそれが小惑星ではないと気づくことになります」と述べました。
https://gigazine.net/news/20250128-2018-cn41-tesla-roadstar/