ルビィ「んーっ。今日はいい天気だなぁ……。たまには散歩に出かけるのもいいよね」
ルビィ「お姉ちゃんのアイス食べちゃったから、しばらくはこうして――って」
ルビィ「あれ。あそこにいるのって善子ちゃんと聖良さん……?」
ルビィ「何してるの、2人とも」
善子「ん。あぁ、ルビィ」
聖良「こんにちは。お出かけですか?」
ルビィ「うん。ちょっとお散歩。2人は何してるの?」
聖良「特段何をしている訳でも。穏やかな陽だまりで対話というのも、いいものでしょう?」
善子「たまにはこうしてヨハネの闇の力を中和することも大切なのよ」
ルビィ「楽しそうっ。よければルビィも仲間にしてもらってもいい?」
善子「構わないわよ。……くくく。運命に導かれし者たちが、自ずと集ってしまったということね」
善子「これもまた神の戯れか。いいでしょう。その戯曲、ヨハネがあえて乗ってあげます……」
ルビィ「あはは……。ごめんね、聖良さん。慣れるまでは大変だと思うけど」
聖良「構いません。ヨハネさんの言葉はいい刺激になりますから」
ルビィ「よかった。そう言ってくれるなら――……ヨハネ?」
聖良「ヨハネさんは私に素晴らしいインスピレーションを与えてくれます。今度もいい曲が出来そうです」
聖良「それはまるで闇からの囁き……そう。漆黒の空から舞い降りる一枚の黒羽にも似た、孤独でしかし気高き鼓動……」
ルビィ「……」
ルビィ「ぅゅ?」
善子「ふっ。このヨハネの世界を理解できる者はなかなかいないわ。プリンセス・セーラ」
善子「神聖かつ崇高なる真名を持ちながら、闇に歩み寄ろうという愚かさにも似た強靭な精神……敬意に値するわね」
聖良「ありがとうございます。光栄ですよ、ヨハネさん」
善子「くく……。こういう時に謙遜しないのはあなたの面白いところね」
善子「あなたの本質はむしろデーモンにこそ近い……そういうことなのかしら」
善子「あなたはどう思う? ――ルビィ」
ルビィ「えっ」
聖良「……」じーっ
善子「……」じーっ
ルビィ「あ、あー」
ルビィ「うん。そう、だね。えへへ……」
善子「やはりあなたもそう思うのね。――ふっ。我が魔眼は、今日もまた深淵に沈んだ真実を見抜いてしまう……」
聖良「自分の客観的な評価が得られる、というのは希少な経験ですね。偶像を名乗る以上、他者の観察結果に縛られることは必然です」
聖良「もっとも、縛られ続けるつもりは――ありませんけど」
聖良「己の評価を破り。組み伏せ。そうすることで初めて、頂点の景色はこの目に映る――!」
善子「くく。執念すら感じられる研ぎ澄まされた野心……。それでこそSaintSnowと、そう評させてもらいましょうか」
善子「この堕天使ヨハネが、Aqoursの軍勢を率いて相手をするに相応しい……!」
聖良「その時は全身全霊でお迎えしましょう。勝つのは――私たちですが」
善子「くくく……」
聖良「ふふふ……」
ルビィ「……?」
ルビィ「???」
聖良「ああ――でも本当に、ここであなた達に会えた偶然には感謝しかありません」
聖良「私は今、この休日をとても有意義なものに感じています。あまりにも得がたい――そう」
聖良「スクールアイドルが青春の輝きと言うのなら、この暖かな夢はきっと、その輝きを映し戦士に一時の休息を与える月光……」
善子「この、忌々しくも心地の良い陽光の元の邂逅を、あなたは月夜の夢と呼ぶのね。面白い」
善子「けれど、ええ。私も同感よセーラ。たまには地上に出てみるのも悪くはないわ……」
ルビィ「」ポケー
聖良「ルビィさん。あなたにも感謝を」
ルビィ「へぁ!? え、あ、はひっ」
聖良「理亞のこと。最近のあの子はとても楽しそうで……あなたのおかげです」
聖良「紅玉――ルビーには愛や情熱といった意味がありましたか。あなたの胸の内に秘めた想いが、きっと理亞にも響いたんでしょう」
聖良「ありがとうございます」
ルビィ「……あっはい」
聖良「しかし感謝とは別に――嫉妬もあります」
聖良「あの子は。理亞は、前へと進むことに恐怖を覚えていた。それは――そう。まるで」
聖良「はるかな天涯にかけられた不可視の道を進むような。そんな強い恐怖を越えてあの子が歩み始めた理由はどこに……?」
聖良「あなたがあの子にかけた勇気という名の魔法は、いったいどんなものだったのか……」
聖良「教えて頂いても構いませんか。あの子の姉として、私はきっと、それを知らなくてはならないんです」
ルビィ「……? !???」
聖良「……」じーっ
ルビィ「え、あ。うん。えっと」
ルビィ「あの。何ていうか。勢い、かなーなんて……えへへ」
聖良「……ふむ」
ルビィ「ぅゅ……」
善子「――そう。そういうこと。さすが、我が忠実なるリトルデーモンね。ルビィ」
ルビィ「え!?」
善子「あなたの中に流れる魔力が、あなたに囁いたのね。きっとあなたの行動は魔なる者の本能……」
善子「上出来です、リトルデーモン・ルビィ。あなたが上級リトルデーモンの扉を開く刻は近い」
ルビィ「? ……?」
聖良「なるほど。よく分かりました」
ルビィ「!?」
聖良「理屈ではないんでしょうね。共鳴する心というものは」
聖良「確かに、そうです。理屈で語ることの出来る真実なんて、いったいどれだけあるものか」
聖良「言葉だけでは何も語れない。だからこそ私たちは、言葉に音楽を乗せ、舞い踊る……。心を伝え合うために。響かせ合うために」
聖良「ふふっ。私としたことが、大切なものを見失っていたみたいです。あなた達には、また感謝を重ねないといけませんね」
聖良「理亞だけでなく、私まで救われてしまった」
善子「くくく……そんなことはないわ、セーラ。なぜなら悪魔は、人を救いはしないのだから」
善子「救われたとあなたが思うのは、それはきっと、あなた自身の力で答えを見つけ出したからに他ならない」
善子「そう。それは神も悪魔も侵すことの出来ない神聖――あなたが、空を求める理由……」
聖良「……ありがとうございます」
聖良「ルビィさんも。本当に、ありがとうございます」
ルビィ「……」
ルビィ「……あー、と」
ルビィ「ううん。きにしないで」
善子「ルビィもリトルデーモンとしての自覚が芽生えてきたようね。喜ばしいことだわ」
善子「――ねえ、セーラ。あの件、ルビィにお願いしてみようと思うのだけれど、どう思う?」
ルビィ「え。あの件?」
聖良「素晴らしいですね。ルビィさんがいれば、私たちはより高みに至れる……そんな確信があります」
ルビィ「え、あの」
ルビィ「……え?」
聖良「S.A.S――Saint Aqours Snowを、覚えていますね?」
ルビィ「あ、うん……。あの、何で頭文字を、」
聖良「あれが好評だったもので、このままグループ間の交流を続け、新しいユニットを結成してみるのもいいのではないか、と」
聖良「そんな話をヨハネさんとしていたんです」
ルビィ「新しいユニット?」
善子「そう。この堕天使ヨハネとプリンセス・セーラの2人組のユニット……」
善子「遼遠の邂逅。聖魔入り混じるカオスの極致。ユニット名――Cocytus……!」
ルビィ「こきゅうとす」
聖良「ふふふ。素晴らしいユニット名でしょう? 私とヨハネさんの持つイメージ、両方が見事に表現されている」
聖良「あえてこのイメージを言葉にするなら、そう――クール&クール」
ルビィ「つめたい、そしてつめたい」
善子「けれど問題が浮上したのよ、最初はこの通り、2人組のユニットで考えていたけれど……ね」
聖良「私とヨハネさん。クール&クールの組み合わせは完成された究極のユニットと言えますが、しかし、――完成され過ぎている」
聖良「私はこう思うんです――永遠のチャレンジャーでありたいと」
善子「アダムとイヴは禁断の林檎を口にして天界を追われた……しかし私はその罪を、誤りだとは思わないわ」
善子「新たな境地を求め果実へと手を伸ばす……それはとても尊い罪なのです。そうは思わない? リトルデーモン・ルビィ」
ルビィ「う、うん……うん?」
善子「あなたをCocytusへと迎えてあげる。私と、私たちと共に――地獄を統べましょう……?」
聖良「あなたとなら、昏い凍土の底から登り詰めることが出来る。頂点へと……! そこから見える景色は、きっと――」
聖良「きっと奇跡と呼ぶに相応しいものです。与えられたのではなく、自分の手で掴み取った、真実の……!」
善子「さあ、我が親愛なるリトルデーモン……答えを、聞かせてもらえる……?」
ルビィ「ぅ、……ぅゅ?」
聖良「……ふむ」
聖良「すぐに答えは出せませんか。いいえ、でも。仕方ないことです」
善子「そうね。……我ながら、らしくもなく急いてしまったものね。その答えはよく考えて出すべきだわ」
善子「運命に流されることは容易よ。けれど、自ら運命を掴み取るその意思こそが、何よりも重要……」
聖良「考えがまとまった時に答えをください。大丈夫、私たちは待っていますから」
善子「待つことには慣れているもの……。幾星霜もの時を越えたこの堕天使ヨハネにとっては、人の迷いなど刹那」
善子「だけれど、覚えておいて。人間の一生は、若き日の輝きは、短いわ。……早い答えを期待しているわ」
ルビィ「あ、うん……いや、えっと」
ルビィ「あの。ルビィ、さっきからよく……」
善子「……そう。あなたは怖いのね。新たなる一歩を踏み出すことが」
聖良「気持ちは分かります。本当は私たちだって、同じなんです。ですが――」
聖良「ですがどうか恐れないで。その昏い夜を。一歩を踏み出し前へ進めば、いつか夜を照らす光が来る。その時こそきっと」
ルビィ「あの、だから。えっと、その……」
果南「――あれ? 何やってるの、みんな。珍しい組み合わせだね?」
ルビィ「あ。果南ちゃん」
聖良「こんにちは、果南さん。ランニングの途中ですか」
果南「まあね。いい天気だしさ、ちょっと走りたくなっちゃって」
果南「それで? みんなは何してるの?」
善子「ふっ。よくぞ聞いてくれたわ……。我々は今、地獄を統治するための新たなる同盟について議論していたところよ……」
果南「?」
果南「ねえ聖良さん。今の、分かった?」
善子「えっ」
聖良「え、ええ。まあ」
聖良「誰も見たことのない可能性、とでも言いましょうか。この3人はきっと、そんな可能性を秘めている……そう思うんです」
果南「あはは。なにそれ。よく分かんないや。可能性って、何のこと?」
聖良「えっ。あ、あーっと……」
聖良「つ、つまり、私とヨハネさんとでユニットを組もうかと話をしていて……それで、ルビィさんも加えてみてはどうかと」
果南「なんだ、そんな話? わざわざ同盟とか可能性とか、言い換える必要ってあったかな?」
果南「ねえ。何でわざわざ言い換えたの?」
聖良「ぐっ。いえ、それは、その……」
善子「えっと。カッコいいかな、って」
果南「ふーん。そうなの?」
聖良「は、はい……」
果南「ふーん……。よく分かんないなぁ。それがカッコいいんだ?」
善子「うぐっ」
果南「まあいいや、そんなこと」
聖良「あ、はい……」
果南「それよりさ。一緒にランニングしない? 一人で走るのも寂しいって思ってたんだ」
聖良「はい……そうします。はい……」
果南「あれ。何か元気ないね? 何かあったの?」
ルビィ「……か、」
果南「? どうしたの、ルビィちゃん」
ルビィ「果南ちゃん、すごい……!」キラキラ
果南「え? 何が?」
果南「え?」キョトン
おしまい
これにておしまいです
読んで頂いた方、ありがとうございました。お目汚し失礼しました
このSSのお陰でようやくメタルガルルモンの必殺技の意味がわかったわありがとう
面白かったけど短編なのに読むの疲れたわww
おつおつ