コレッタが飛ばした紙飛行機が学園から飛び出してしまった。
風に乗って、学園の東に並ぶ古い民家立ち並ぶ天秤町へと向かっていったところまで見たとコレッタは言う。グラウンドから山を臨む
コレッタの眼には濁りおろか、ウソをつくことさえ知らない清らかさが誰の眼にも見えた。だから、教師の泊瀬谷はコレッタに
尻尾を引っ張られたつもりで、放課後を費やしてでも紙飛行機さがしに付き合うことにした。
もちろん、紙飛行機の一つや二つ諦めたら?と泊瀬谷は慰めたが、ぶんぶんと首を横に振って悲しそうな顔を見せるだけだった。
コレッタのクラスメイトが横切って先に帰宅するなか、泊瀬谷とコレッタは紙飛行機の向かった民家が立ち並ぶ路地と坂の町に向かう。
「ホントにこっちに飛んでいったのかな?」
「ウソじゃないニャ!コレッタ、見たもんニャ!」
「そっか。じゃあ、頑張って探すぞー!」
母親と言うには若すぎて、姉と言うには歳が離れすぎる。泊瀬谷は少々戸惑いながらもコレッタを先導した。
「こっちが近道ニャ」
赤いランドセルを揺らしながらコレッタは泊瀬谷を追い越して先頭を切り、坂の町・天秤町へと迷い込んでいった。
のんびりとした私鉄の線路を越えるペンキの剥がれた歩道橋を渡り、その先に続く迷路のような町へと二人は吸い込まれていった。
急斜面に犇めき合うように立ち並ぶ家屋。手を伸ばせば届く屋根。子ネコ一人がやっとすれ違うことができるぐらいの狭窄した路地。
いつの間にか他人の家に上がり込んでしまうかもしれない軒先を掠めながら、泊瀬谷とコレッタは紙飛行機を探す。
見つかる確率などゼロに等しいかもしれないが、ゼロではないから望みを捨てられない。突如現れる石段を下ると、
コレッタは両足揃えて飛び降りた。ふわりと短いスカートが翻り、健康的な白い脚がきらりと石畳に花咲く。
「どうしても見つけなきゃいけないの?」
一段一段足元を用心しながら泊瀬谷はブラウン色のブーツを鳴らした。すっかり秋めいてきたから、秋色の装いで登校してきたが、
コレッタに巻き込まれてこんなに歩くとは思わなかったから、肌寒いはずなのに少し暑い。気が付くとコレッタは登りに変わった
海臨む石段を疲れることなく駆け登っていた。紙飛行機追いかけて、迷宮のような石段を上って泊瀬谷は息を切らす。
昼間は海風がすすすと町を撫でる。陸へとよじ登る風がコレッタのスカートを翻していた。
「海風だね」
「うみかぜ?」
コレッタはスカートを抑えながら泊瀬谷の顔を伺った。穏やかなお天気から授かった、ちょっとした悪戯。
ぷいと悪戯をかわすようにコレッタは石段交わる小さな十字路を通り抜ける。
だんだんと手がかりの無い探し物は人を意気地なしにしてしまう。
海からの風が迷路に迷い込み、子ネコのように素早く通り過ぎていった。
「コレッタちゃん、待ってよお。どうしてもなの?きっと、誰かに拾われてるよ」
「ニャ!!」
尻尾を膨らませたコレッタは踵を返し、両手でバランスを取りながら石段を下りる泊瀬谷を見上げていた。
言葉は少なかったが、小さな白いネコが伝えようとせんとすることは泊瀬谷に届いていたのであろう、それ以上泊瀬谷は口を
挟むことはしなかった。泊瀬谷だって、教師の端くれ。生徒の考えていることぐらい心得ている……つもり。
ようやく泊瀬谷がコレッタに追い付くと、泊瀬谷は斜面からの下界の景色と、風が髪をかき上げるさりげない快感を覚えた。
「先生ニャ!」
コレッタはいきなり担いでいたランドセルを泊瀬谷に渡し、目の位置からは下に見える瓦屋根をじっと見つめ、低いブロック塀に登る。
腰ぐらいの高さで海側の路地を縁取るブロック塀。急斜面の路地ゆえの作りだが、その代わり山側には石垣のような壁がそびえる。
急斜面に建ち並ぶため、子ネコのコレッタでも頑張れば屋根を飛び越せるというダンジョン。ネコの額の路地はネコに優しい造りだ。
屋根越しに麓に沿って走る私鉄電車ががたごとと音を遠くから響かせて、道と商店街を挟んだ先には静かな海が狭くも広がっていた。
青い空を背景にコレッタを足止めした白い塊がふわりと舞った。
「ちがったニャ……。見まちがえニャ。コンビ二の袋だったニャ」
「そうなんだ。紙飛行機じゃなかったね」
「コレッタの紙ひこうきはテストの紙ニャね。折り曲げて作ったニャよ」
「そうなんだ。お母さんに見せちゃ怒られるかなあ?って」
寂しげな表情を浮かべコレッタは淡いピンクで染まったカーディガンの裾を伸ばしていた。ゆっくりとコレッタの尻尾がうな垂れて、
背後にそびえる石垣を尻尾の先でなぞりながら地上の石畳へと降りた。ゆっくりと尻尾が下がるさまは子ネコの思いに似ていた。
コレッタのランドセルを片肩に担いだ泊瀬谷の肩がそう遠くもない小学生の日々を思い出す。こんなにランドセルって重かったかな。
赤く染められた合皮の肩紐が泊瀬谷の肩に食い込んで、ぶらぶら下がる泊瀬谷の頃にはなかった防犯ブザーがゆらゆらと揺れる。
「ひゃく点だったニャよ」
自慢すべきであ百点満点の答案、紙飛行機にするなんてもったいない。
泊瀬谷の肩に食い込むランドセルの肩紐、納得のゆく点数なら軽く、そうでない点数なら重く感じた記憶が甦る。
「テストでひゃく点取ったからうれしかったニャ。みんなにじまんしようと思ったけどニャ、クロの点数はよくなかったニャね。
それでひゃく点のテストの紙でひこうき作って……えっと、えっとニャ」
「そこで、玄子ちゃんを安心させようとしたんだね。『コレッタも点数悪かったニャよ』ってね」
「それ、コレッタが言うニャ!!」
結論を急ぎすぎた泊瀬谷は頬を赤らめた。
「そしたら、クロったら『コレッタの紙ひこうき飛ばすニャよ!』って元気出して、はりきっちゃってニャね。そしてニャ。
『コレッタ、思いっきり外にむけて飛ばすニャ!』って言うニャよ」
「……そうね。玄子ちゃん、コレッタちゃんのテストも良くなかったって思ってるしね」
「それ、コレッタが言うニャってば!!」
#
「跳月センセ。幾らなんでも、鬼過ぎっすよ」
「ぼくのが鬼過ぎるなら、帆崎先生のは悪魔ですね。教育者の心に巣食う、探究心ゆえ知恵の実を口にした悪魔の仕業」
三十路を超えた男子二人が古い住宅街見下ろす古寺にたたずんで、お互いを刃のない刀で傷つけ合っていた。
世間的に若くもなく、かと言ってジジイでもない中途半端なお年頃の二人。年寄りのブーたれも分かるし、若者のハナタレも理解できる。
まるでたそがれ時に淀む空気が呼ぶ、凪のような存在であった。
一人は古文担当・ネコの帆崎。プリントを手にしてぐしゃりと握りつぶす。
もう一人は化学担当・ウサギの跳月。プリントを手にして几帳面に折りたたむ。
「『大伴家持が編纂した「万葉集」の中で「読人不知(よみひとしらず)」の歌を三つ挙げ、それぞれ読人の人となりを推して記述せよ』
だなんて、どう答えれば正解なんですか。別に全ての理系人が『○○の気持ちを述べよ』に反感買ってるわけじゃないですから」
「それじゃ『「ウラシマ効果」を用いて「サザエさん時空」を説明せよ』って、分かるわけないじゃないですか!」
暇だから、お互いの担当教科の小テストを作ってみた。帆崎は古文、跳月は化学、それぞれの担当教科で本気の小テストのを作って
高校時代を思い出しながら解答しあったのだが、なんせ生徒無視、授業無視で作成された問題は少々辛口……と言うより大人気ない
内容となり、両者散々な点数と相成った。全力を挙げた大人たちはときにリア厨よりも子供だ。冗談で作った本気のアマガミ。
男子なんて、歳を取っても体はオトナ、心は子供なんだなと、二人して赤点以下の散々たる結果を真摯に受け止める。
「帆崎先生は高校時代、こんな点数取った答案どうしてましたか」
「ぼくはそんな点数取ったことありませんよ。跳月先生こそどうなんですか」
「ありませんね。ぼくだって」
小石を蹴って「跳月先生らしい返事だ」と口にださない独り言を帆崎がこぼす。丸めた0点の答案をお手玉よろしく投げる。
生け垣越しに古い住宅街の屋根がちらちらと見え、急斜面の上に建つ古寺とのコントラストが絶妙に混じり合う。天秤町とはそんな町。
「ぼくですね。化学の教師って職業があってホントよかったなって思うんですけどね」
「なぜに」
「自由に遊ばせてくれますからね。社会が」
「先生は若隠居しているつもりですか」
「闘いなど何も生まない」
境内の土をくたびれたスニーカーで踏み締め歩き、跳月は古寺の山門に寄り掛かる。くたびれたシャツは野郎一人暮らしの勲章。
着るものさえきちんとすればそこそこの面構えなんだが、跳月はとくに面倒を感じていなかった故に残念だ。
「もし中学三年で跳月先生と同じクラスだったら、お互いどう思ってたでしょうね」
「帆崎先生が100点取っても帆崎先生ははしゃがないだろうし、ぼくも何の気を止めないだろうな」
「でしょう」
「お互い様ですな」
こんな会話を続けていても、枯れていくさまが際立つだけだ。
帆崎と跳月はどうしょうもない会話で時間を潰す。
「この間、芹沢と高坂が話してたんすけど。中等部の男子ですよ。『空から女の子降ってきたらどうする?』って」
「物理的にありえない。まず、無の状態から生態を発生させる理屈から突っ込もうか」
「『危機的状況に居合わせた場合9割の確率でいい関係になるんだぜ!』って高坂が言うんです」
「果たしてその子は地上への自由落下において受ける空気抵抗に耐えうるのか」
「芹沢は『ぼくらに好意を持ってくれてたらいいけど、ドSだったらどうする?』だって、ですよ」
「……ぼくの話、聞いてます?」
「聞いてません」
お互い様の無駄遣い。帆崎はぎゅっと握り締めた自分の答案を再び広げると、ひったくられるように海風にさらわれて空へと
解き放ってしまった。まるで答案が翼を下さいと願っていたように、山側を目指して飛んでいった。
ひらひらと行方を晦ませる紙切れを帆崎は黙って見ているしかなかった。
「海風循環ですね。日中暖められた陸の空気は上昇し、海上の空気が陸へと雪崩れ込む。一方、夜間では海水は保温能力が
あるから海上の空気が暖められて上昇し日中と逆に陸からの空気が流れる。陸風循環だ。そしてその間の無風状態が凪」
「ちょっと、探してきます」
「……ぼくの話、聞いてます?」
帆崎は重い腰を引きずりながら天秤町の古寺をあとにした。
確かならば、上へと飛んでいったはずだ。帆崎は雲のほうを見つめながら細い天秤町の路地を歩く。
石段の多いこの町はネコに向いている。すれ違うにもお互い気にしなければならないほどの手狭さだが、一旦過ぎると忘れてしまう。
気まぐれなネコがこの古い住宅街に向いている理由はそれなのかもしれない。ざわわと木の枝葉は騒ぎ、雲が流れる。
意外にも探し物はすぐに見つかった。いつの間にか古寺より高い場所にいた帆崎、ずっと上を向いていたので首が疲れた。
失った物は意外と足元にあるもんで、やれやれと海を眺めようと目線を下にすると木の枝に引っかかっているのを発見したのだ。
坂の上からの視線なので、木の上に引っかかっていても帆崎の現在地よりも下に見える。取れないところではない。
「ガキの頃以来だな」
革靴を脱いだ帆崎は恐る恐る木の枝に足を掛け、両手で掴み、0点の答案の場所へと歩みを進めた。
ぐらぐら揺れる木の上でも、帆崎はらくらく進む自信があった。みしみし軋む枝に気を使いながら、すいすいと帆崎は進む。
枝葉から覗く海の眺めは地面にいるときよりも美しく見えた。全てを見せない葉のシルエットが見事なまでに邪魔で素晴らしい。
そして風がひんやりと袖を抜ける。しかし、それらを楽しむ間など帆崎に許されるはずが無かった。
もうすぐ凪の時間がやって来る。ヤツを捕まえるチャンスかもしてないが、か細い枝から逃げることの無い状態はオトナの帆崎が
捕まえるにはむしろ危険な状態だ。自然を味方につけられなかったのが運のつきかもしれない。
枝に引っ掛かった帆崎の答案ははらりと風に煽られて、遥かに遠い空へ飲み込まれた。最後の望み破れ、手を伸ばしても未だ届かぬ
ものもあると、三十路にして帆崎は知った。値の付けられないものを手に入れた代償として与えられたのは転落。枝の上でバランスを
崩した帆崎は足を滑らせ、両腕で細い枝葉をなぎながら地面目掛けて体を重力に任せた。探し物は再び高い木の枝にしがみ付いた。
背筋を凍らせ、冷や汗流し、咄嗟に掴んだ枝に身を委ねると、弓のようにしなった枝が帆崎の体を地面との激突を防いでくれた。
帆崎が恐る恐る下を見ると、天秤町を巡る路地の真上に自分の身があることを知り、同時にコレッタの姿を見た。
「帆崎先生ー!」
上から跳月の声。まだまだ生い茂る木の葉が帆崎の姿を阻んだ。地上わずかにコレッタの身の丈程の高さで、両足上げてぶら下がる
帆崎は枝の弾力を利用して地面への軟着陸を試みた。ゆっくりと慎重に体を上下に揺さぶり、足元が地面に近付くタイミングを計る。
梢では同じように木の葉も揺れる。
「なにしてるニャ」
「何してるんですか!」
しまった、南無三。情けないところを見られた。
紙飛行機追いかけて家屋が犇めき合う路地からひょっこり現れたコレッタは木にぶら下がる大の大人を目を丸くして見上げていた。
みしっと木の繊維が裂ける音がしたかと思えば、間を置くことなく一気に帆崎を実らせた枝は折れた。
がさがさと木の葉が擦れる音は石畳に舞い落ちる帆崎を笑っているようにも聞こえた。帆崎が尻餅着いて全身の毛並みを
逆立てさせていると、はらはらと枝の折れた衝撃で木の葉が帆崎とコレッタに舞い降りた。大歓声の中で幕を閉じるステージに
演者を讃え舞い散る紙ふぶきのようにはらはらと。
空からおっさん降ってきた。
退屈ばかりが幅を効かせた日常がほんのちょっぴり変わるかも。
そして、世界を救ってしまうかも。
そんなわけないか。
「……どうしたニャ。あまりわるいことばかりしてると、白先生にいいつけるニャ」
「いつつつつ……。それは勘弁な」
路地狭しと体育座りでさえも幅を取る石畳で帆崎は悶絶で顔を歪めたが、覗き込むコレッタの不思議そうな顔に我を取り戻した。
うろこ雲広がる青空にコレッタの白い毛並みと金色の髪がぽっかりと浮かんだ。穴があったら入りたいとはこのことだ。がむしゃらに
穴掘って我が身を隠してしまいたい。しかし、ぬかったことにネコ耳と尻尾が見えてるよ。掴んでいたのは泊瀬谷だった。
#
古寺をあとにした跳月は0点の答案を握り締めて、とぼとぼと急な石段を降りていた。やけにきつい坂道は三十路の体には厳しく当たる。
足元を踏みしめながら移り行く風を体全体で感じていると、見たことのある人影が目に入った。オトナと子供の二人の影。
「おや……。泊瀬谷さん」
すれ違うのも窮屈な路地では同僚とは言え、後輩とは言え間近に顔をお互い合わすのは照れくさい。嫌な演出をしてくれると
跳月は心の中で天秤町へ毒づいた。秋色めいたコーディネートの泊瀬谷は教室よりもオトナに見える。もしかして、後ろ手で
コレッタを連れているからかもしれない。ランドセルの肩紐をぎゅっと握り締めたコレッタは泊瀬谷の背中に隠れた。
結局、コレッタの紙飛行機はコレッタの手元には戻ってこなかった。だから、コレッタは言葉少なくなった。
「お寺にでもご用事ですか」
「ご用事ではありませんでした」
「この町は用事でもなければ飲み込まれてしまう」
泊瀬谷は跳月のいきなりの詩人ぶりにきょとんとしたが、全てはこの町のせいだと思えば何もかも合点がゆくことに気付いた。
町は人を彩り、人は町を彩る。何があってもおかしくない町の出来事など、素直に受け止めればよい。泊瀬谷は会釈をして
跳月の側をすり抜けようとした。
そうだ。
「泊瀬谷さん」
跳月はすれ違いざまの泊瀬谷の後ろ尻尾掴むように声をかけた。着いて来たコレッタのランドセルが跳月の脇腹をかする。
「もし、空から……女の子が落ちてきたら。どうします?配点10点」
「え?」
「ぼくからの小テストです」
顎に手を当ててしばらく泊瀬谷は考えた。答えなど分からない。作者の気持ちが分からない。
「あの。空から、帆崎先生じゃだめですか?」
「……あり得ない。泊瀬谷さんも0点ですね」
「ちがうニャ!ひゃく点ニャ!」
ランドセル姿の子ネコは眉を吊り上げて主張した。
#
未だに木の枝に引っかかった答案に見守られながら帆崎は路地の壁に寄りかかり、眼下に広がる民家の屋根と静かな海を眺めていた。
風は気持ちがよいというのに、びりびりと尻の痛みが引かないのがちょっと悔しかった。
おしまい。
やりたい放題で毎度すいません!
新スレでもよろしくお願いします。
投下おわりでございます。
泊瀬谷センセ、コレッタの答案用紙どこいっちゃったんでしょうねぇ…
(夏の麦わら帽子っぽく)
何気に帆崎先生と跳月先生のダメ大人っぷりが素敵w
>>10
わーい、お嬢様だ!! >>13
N-Oneってそういう意味……誰うま
舌の配置にセンスを感じたり
猫顔はちょっと前のプジョーがやってたけど
犬顔はどこもやってないからいいかもしんない モエ「やっば、クリスマス近いのに彼氏いない的ー。クラスの奴ら集めてクリスマス会でもやるかー。いんちょー来る?」
リオ「えっ、ちょっと私は用事があって(冬コミが忙しい)」
モエ「リオも彼氏なんか居ないっしょ。来い来い。決まりね」
リオ「…(冬コミが忙しい)」
モエ「他に寂しい奴は、っと。うーん、ハルカは彼氏持ちだし、ミーコとクーはゲーカッポーだし、ユーリは野郎転がすの上手そうだし、りんごと翔子と番場ちゃんあたりかな、男子はどうしよっかな」
シロ「……」
リオ「ひそひそ(ね、ねぇ、モエ。ババアが仲間になりたそうにこちらを見ている)」
モエ「おーこーとわーりしますー♪ご遠慮しますー♪的なー?アハハー」
シロ「……(残念そうに帰っていく)」
リオ「うわぁ……悲惨……」
モエ「馬鹿と虫と犬上と、ん?犬上呼ぶならハセヤンも必要?教師一人だと浮く?おーい、シロせんせー、しょうがないからクリスマス会来るー?」
シロ「えっ?私も良いのか?そ、そうだな、そういう会には引率が必要だしな!」
リオ「モエ、なんでだろう、私、涙がとまんない」
モエ「えー、なんでー?」
はせやんとヒカルくんのことを感づいたのか?モエっち
さるべじ?
冬の市電の中は暖かくて眠い。
まるで睡魔の館を不意に訪れたようだ。
おまけに雨粒がガラス窓を叩く音が単調過ぎ、さらにはモーターの振動で脚から揺さ振られると、もう睡魔に唆されるしかないよねと、
すんなりと諦めがつく。車内で犬上ヒカルは片手に吊り革、片手に濡れた傘を持ち、雨に曝されてしまった右肩を気にしていた。
乾きはじめたジャケットと、ヒカルの若い男子の匂いが入り混じる。気にはしているつもりはないが、ちょっとは気にしてる。
白いイヌのヒカルはとろとろっと体を吊り革で支えながら、市電を追い抜いてゆく大型バイクを目で羨ましそうに追いかけていた。
鉄(くろがね)が命を宿るとき、誰もが永久の友を持ち、誰もが深い絆を契る。
ヒカルの眼に映ったテールランプが赤く焼きついた。
「……」
季節柄、リア充どもが幅を効かせ、ヒカルの目の前も例外なく仲睦まじく寄り添っていた。隣り合わせは気恥ずかしいから、
背中にそっと居てほしい。やがて市電が止まるとリア充どもが席を立つ。若い娘がオトナ気取りで踏み鳴らすブーツの踵の音で
ぼうっと瞼を重くしていたヒカルはしぶしぶと耳を立てた。
今日一日振り返る。
風紀委員長の因幡が騒いでた。化学の跳月は意地悪だって。口さがないように聞こえるけれど、因幡の目はウソつきかも。
いくら真面目なメガネで隠していても、決して跳月の話を絶やさないし。ただ、疑わしきは罰せず。どう思いますか、先生。
ヒカルも因幡も不安なお年頃だから、オトナに擦り寄りたくもあり、大人を毛嫌いしてしまう。
担任のネコの泊瀬谷が本に没頭するヒカルの側で浮かれていた。「もうすぐ、クリスマスだよね」と。
慌てたヒカルは本を閉じた。内容は長い冬を終えた頃のバイク一人旅、春を探しに行く繊細な文章がかすかに香るとヒカルは言う。
「ぼく、小さい頃、クリスマスの日はなかなか寝なかったんですよ」
「どうして?」
ヒカルは「プレゼントがやって来る瞬間をこの目で見たかったから」と恥ずかしそうに答え、泊瀬谷はその顔を見て
口元を緩ませていた。ヒカルはそんな泊瀬谷にちょっと目を吊り上げた。
「先生っ」
もう一度。
「……先生」
先生、ですか。
犬上ヒカルくん。先生はそこにいません。もしかして、隣り合わせで居られるのもあと僅かかもしれません。
でも、ヒカルくんの勇気でほんのちょっと長く……いや、ずっと居られるかもしれません。
「眠いや」
#
雨上がりの夕方、ヒカルは教習所のコースを見渡せるテラスにて、体を締め付けるプロテクタを気にしていた。
第一段階はなかなか手強い。ゲームなら時間の許す限りやり込めばやり込めるが、バイクの教習はそうはいかない。
ゼッケンは何となく格好悪いと始めは眉をひそめていたが、最近は着けていないと落ち着かない。肘、膝、腕のプロテクタだってそうだ。
形から入るのも悪くない。姫君を迎えに行く甲冑を纏ったナイトのようだと物は考えよう。腕にぶら下げたヘルメットも軽く感じる。
「犬上もこの時間なの?」
学校で聞くよりも声の女子度が違う。援軍もついて来ない孤軍奮闘、一人で立ち向かう孤独なジャンヌ・ダルクか。
クラスの委員長こと真面目のまー子がヒカルと同じように教習所からのぶっきらぼうなゼッケンを着けていた。
プロテクタに着させられた女子高生のウサギが耳を垂らして元気なさ気にヒカルの横に並び、ため息をつく。
出席簿を抱えていたならばメガネが光るもの、受講終了のハンコを押してもらう教習所の原簿ならば彼女も気が重い。
「一本橋、苦手だなぁ」
「因幡はちゃんとタンクを脚で挟めてる?」
バイクは体で乗るもの。頭で分かっててもとは100年前から使い古された言い訳。古人は全くいい加減なことを残してくれる。
「学科は得意なのに、実技が追い付かない。わたし、免許取れるかなあ」
ウサギの因幡リオにはコースを走り回るバイクたちが海を跳ね回るイルカに見えてきた。乗ってみたいけど、所詮は憧れ。
自分より腕の立つものを見れば見るほど自信が失せる。牙を抜かれた委員長ほどいじらしくて、手を出したくなる。
ましてやぶかぶかのジャケットにヘルメットを抱えた出で立ちならば。一つ背中のゼッケンの数字を指でなぞってみようか。
「8」なんかなぞり甲斐があるぞ。はたまたヘルメットを奪って被せてみようか。
だが、ヒカルはそんな小さなSっ気に目覚めることなく、大人しくリオの話に真剣な態度にて乗ってきた。
「多分……」
俯いてショートの髪から覗くリオのうなじを見ていたヒカルが口を開き、リオはメガネを指でつまんでかけ直した。
「男子の気持ちが分かれば、直ぐに上手くなるよ」
「何?わかんない!」
「男子だってば」
リオはヒカルの脛を蹴ろうと足を上げたが、遠くで教官が二人を呼ぶ声がしたのでヒカルは命拾いした。
ヒカルの言う「男子の気持ち」をぶつぶつと頭で反芻しながらリオは教官とこれから一時の愛機となるバイクの元へ駆け足で急いだ。
その日の教習を終えたリオは重かった。自分の納得のゆく結果に至らなかったから、学校ではチキンと委員長やってんのに
ここではどうして怒られるんだろうと理由は突けばいくらでもある。学校の制服に着替えスクールバッグと自分用のヘルメットを
両手揃えてぶら下げて玄関先で佇む。
「帰るの?」
言葉を口にせず頷いたリオには男子の気持ちがなかなか分からなかった。
「ぜったい、犬上より早く免許取るんだって頑張ったのに」
帰り支度を済ませ、後は帰るだけのヒカルはリオの薄い手の平を見つめていた。きっと誰かにすがりたいだろうが、
扱いに困る委員長だからそっとしておくに限る。ヒカルが夕焼けの街に消えてゆくのをリオは追いかけた。
まだまだ力が無いからか、街の一かけらになるのはどうしてだろう。だから愛機に跨がって抜け出したいと、バイクの免許を取ろうと
思った。出来ることなら誰かと一緒に、背中越しの暖かさで寒さを凌ぎながら。まだまだ殻に閉ざされた孵化する前のバイク乗りの
ひよこたちは私鉄のガード下に身を隠すように佇んでいた。
男子高校生の頭がつきそうなぐらい低く、乗用車がすれすれ通るぐらい狭いガード下はレンガ作りの昭和生まれ。蔦がいやがうえにも
街の歴史を刻む。
「免許取ったらはづきちを見返すんだ。『わたし、はづきちが見たことない景色が見えるんだよ』って」
「いいなあ。それ」
「犬上はどうして免許取るの?」
「泊瀬谷先生に勧められたから」
「それだけ?」
「一緒に誰かと景色を楽しみたいから」
「誰と?」
女の子の勘がピンと冴え、耳を揃えてリオはヒカルの目を睨んだと同時にガードの上を旧式の電車が渡る。
鉄の音ががんがんと響き、ヒカルに思案する間を許した。
「わたし、バイクに乗ってる間、ずっと犬上の言う『男子の気持ち』を考えてた。でも、なかなか分かんなかったから一本橋……」
「……」
「どうして男子は好きな子がいることを隠すの!?」
奥歯を噛み締めたヒカルはこみあがる感情を堪えながら拳を握り締めていた。ガードの上に再び電車が通過することはなかった。
ただ、ヒカルとリオの目の前を通り過ぎたのははづきちの腕に絡み付く泊瀬谷の姿だった。
ヒカルとリオがたそがれているのも気付かずに、小さな十字路を横切る大人たち。
またしてもガードの上には電車は通過しなかった。両手で握ったあごひもはリオの片手から外れ、ゆらりとヘルメットはぶら下がった。
「……予約入れていい?犬上、早く免許取ってよ。わたしが後ろに乗るから」
バイク乗りの背中の広さを味わせてあげるには運転を許されてから一年待つべし。
リオは遠い日を指折り数え、ヒカルは奥歯を噛んで大きく息を吸い込んでいた。
#
目が覚めた。
時計はまだ11時、いつの間にやら夢を見ていたらしい。枕元の靴下は空っぽのまま。
日中の雨はとっくに止んで、代わりに澄んだ夜空には瞬く星が並ぶ。勇者が棍棒を振り上げて空を支配しようが乙女の夢は続く。
布団から跳ね起きた泊瀬谷は星の光で消えてしまった夢を消えた蛍光灯を見上げながら思い出した。
「……ヒカルくん。まだ起きてるのかな」
夢の続きを見たかったような、見たくないような。
夢であってよかったのかな、と。
ヒカルの顔をこのままずっと見たかったな……と。
ヒカルのことばかり考えていたので、昼間のヒカルを思い出した。
クリスマスプレゼントは後に取っておこう。ヒカルといっしょに探しに行きますから。
でも、いっしょに行けるかどうかわかりません。
だって、男子の気持ちが分からないから。
おしまい。
めりーくりすます!
ぬいぐるみか。自キャラじゃ無理だなwww
なんとか考えよう
ネオンがぴかぴか、夜行の性がざわざわ。
生徒指導は巡回から。
たまには仕事に精出すか、とばかりに猫の帆崎先生は宵の口を徘徊する。
冬休み明け指導強化月間てなんだよクソ早く帰らせろ寒いよ嫁にごろごろニャーンしたいよ、と言う本音は飲み込んで忘れる。
自前の毛皮と、マフラー、ジャンパー、手袋、帽子。寒さ対策もばっちり。
巡回先はゲーセン、クラブ、飲食店、コンビニ。
其処ここで夜会を開くネコをはじめとした学生達に見つける端から声をかける。
コンビニ前にて生徒を三匹見つける。
中等部の三人組だ。
「おい、中ガキ生はお家でエロ本読んでる時間だろ。カエレ。父ちゃん母ちゃん兄ちゃん姉ちゃんが心配すんぞ」
「うわ、ザッキーが仕事してる!?」
「モエねーも多分どっかで遊んでるよ」
「すみません、俺が稽古だったんで待たせてました。帰ります」
さっさと帰る良い子達を見送り、ザッキーは心中で3匹、と数える。
モンハンでランポスかジャギィを狩ってる気分である。10匹くらいで依頼達成かな。
続いて飲食店。店員に一言いって店内を見回す。
三匹ならぬ三バカ発見。
「おい其処のTHE三名様、帰れ。センター問題でもやってろ来栖。帰ってウマチン擦ってろ馬鹿。ヒーローは日曜朝現れるもんだろ鎌田」
「ザッキー、ちゃんと勉強してたらセンター対策なんていらないぜ?」
「なんで俺だけ名前じゃないんだよ!馬鹿ってヒデェぞ!馬鹿に馬鹿って言った方が馬鹿なんだ!」
「ライダー系、戦隊系は向こう半年録画予約してありますから大丈夫です。寝過ごしても」
「うーん……お前らは俺が持つ内申書コメントと内申点の威力を知っているか?」
「「「帰ります」」」
これで6匹。
続いてクラブ。
流石に学生服で来るバカは居ないので顔をよく見る。
うーん、正直制服脱がれるとあんまりよくわからん。
低音がうるさいしタバコ臭いし早く帰るか、と思った矢先に生徒発見。
トカゲとネコがキスしててた。
猛とハルカだった。
「お、おう、早く帰れよお前ら。人前でイチャイチャすんな。先生、声掛けるのためらっちゃったよ」
「ああん、んだテメー……って、ザッキーじゃねーか。何してんだよ、教師がこんなとこ遊びに来んなよ」
「はわ、はわわわ!違うの、違うの先生!」
「慌てるなハルカ、生徒指導の出番で間違いない。猛よう、お前は進学しないかも知んないけど、ハルカは頭良いんだぞ?
ツレの内申書に変なこと書かれたくなかったらさっさと帰れ。お前んちにじゃないぞ?ハルカん家まで送れよ?泊まるなよ?」
「余計なお世話だっつうの、夜遊び教師め」
「コラ、猛!先生に偉そうな口きかないの!ごめんなさい帆崎先生!すぐ帰ります!学校でまた改めて謝ります、ごめんなさい!」
「いいよ、学校で改めて謝りに来られたら話が大きくなるだろ。夜遊びするなよ」
これで八匹。
マジ不良だったからドスジャギィくらいに数えても良いかも知れないな、とか考えつつ、ゲーセンに向かう帆崎先生。
ゲーセンに入るや、プリクラ機のデカイ筐体に隠れるサン先生とモエとリオを見つける。
「君ら隠れて何やってんの?サン先生、巡回終わった?」
「しっ、黙ってザッキー。早く隠れて」
サン先生に言われるまま、ザッキーもプリクラに隠れる。
モエが吹き出しそうな顔をして、ゲーセン奥のUFOキャッチャーを指差す。
白先生が、至極真剣にぬいぐるみを取ろうとチャレンジしていた。
生徒指導の巡回中になんでゲーセンで遊んでんだよ残念過ぎるだろ大人として。
ザッキーは膝から崩れ落ちそうになった。
「なぁ……とりあえず今日は黙って帰らないか。リオ、モエ、お前らの徘徊も不問にすっから、あの残念な人はそっとして置いてくれ」
「大丈夫です。わたし、知ってましたから。白先生が残念なこと」
「ちょーウケるwww」
「えー?!せっかく人の隙見つけたんだから抉ろうよ!突っつこうよー!」
「アンタは教師でしょうが。一緒に遊んでる時点であそこの残念な人と同じレベルだよお馬鹿!」
生徒10匹と教師2匹。
どっと疲れて、帆崎尚武の仕事は終わった。
終わり
白い猫はゲーセンに居る。
クレーンゲームに熱中している。
ゲーセン行けば一人くらい生徒がいるだろう、という安易な発想であった。
保健室にぬいぐるみとか置いてあったら癒しになるかもな。
そんなことまで連想し始めのが間違いだった。
わ、シロセンセー、このぬいぐるみどうしたニャー?かわいーニャ!
わたしにもさわらせてほしーニャ!
かしてニャ!こっちにもかしてニャ!
もふっ、モフモフッ、もふもふもふもふっ。
初等部の子らが、もっふもふとベットの上や保健室のあちこちを走る。
キャッキャウフフとぬいぐるみを奪い合いもふモフッっっっ。
そして遊び疲れたコレッタクロミケあたりがぬいぐるみをもふもふと抱いてベットですやすやぁとぐあああタマラン可愛いいぃいいいいひゃああああああん。
白先生は無意識に万券をジャリ銭に交換してしまっていた。
30分後。
「と、取れないっ!」
アームが弱い、取れそうなのに絶妙なバランス配置してあって落ちない、そもそもゲーム経験が浅い。
勝てる要素はひとつもないのだった。
「詐欺だ!取れないように設定してるんだ!」
息巻く素人にカエルの両生類人店員さんが見かねて声をかける。
「猫のお客さん、取り方の見本見せますから、よく見ててください」
やけにタバコくさい店員が手慣れた様子で筐体のカバーを外して弄り、プレイ回数を5回にする。
5回くらいで取れるはずがない!さっきから何回やってると思ってんだ!と白先生は憤慨するけど、カエルの店員さんは5回のうち3回でしっかりゲットして見せてくれた。
こっちに落とそうとすると無理なんですよ、こっちに移動させてこうやってから押し込んで落とす、ネ、簡単でしょ?
ボブの絵画教室。そんな感じ。
ピタゴラ装置かくやの軌道で落下して行くぬいぐるみを見て、白先生は唖然とした。
名札にスイカと書かれた西瓜みたいな模様のツノガエルに、白先生は三百円手渡す。
「売れ。いや、売ってください」
「ははは、ノーと言える大人を目指していますのでお断りだよお客さん!」
うぐ、と後込む白先生。
いやしかし、攻略法は見せてもらった!解答のあるパズルなどもはや単なる作業だ!
白先生は俄然張り切って更に30分無駄にした。
「取れないって……ほんと、コレ無理」
校門に続く坂道、沢山の人がハレノヒを観覧しにやってくる。
桜の蕾が開く頃、彼ら彼女らに、旅立ちの時が訪れるのだ。
「白先生、今までお世話になりました。中等部に上がっても宜しくね」
卒業証書の入った安っぽいバトンみたいな筒を大事に胸の前に抱き、保健室に入り浸っていた猫の少女が、保健医に挨拶しにきた。
保健医の白先生は、どうしてだか、この時期が慣れない。
別に初等部が中等部になろうが中等部が高等部になろうが、今生の別れになるなんてことはない。
それでもなんだか、なんというか、じんわりと感情が揺らぐのを抑えきれないのだ。
「わざわざ挨拶に来なくても良いんだぞ。どうせ学年が上がっても、私はずっと保健室に居るんだから」
「でもさぁ、白先生、オバサンだから、いつまでも居られないでしょ。あはは」
「オキシドールは年中無休っ」
「や、やぁっ、やめっ、やめて先生っ」
そんなやり取りをしてても。
いつの間に語尾の、ニャ、なおっちゃったんだろうな、とか、綺麗に育ったなぁ、とか、しんみり考えてしまうのだった。
「先生。今まで、本当に、ありがとうございました」
ちっこくて、サラサラの髪で、にゃあにゃあ鳴いてたあのロリッ子が、よく育ったものだ。
「コレッタ、中等部行っても、たまには保健室に寄ってくれよ。コーヒーくらいは出してやるからさ」
「……先生何言ってるんですか?」
「ん?私、変なこと言ったか?」
「やだなぁ、変に決まってますよ。コレッタは私のお母さんの名前ですよ」
「え」
……えっ?
白先生は口先で呆けて、思考でも呆けた。
そして白先生は、保健室の扉から、妙齢の美女に美しく成長したコレッタが、上品なスーツを来て現れたのを口からエクトプラズムを放流しながら見た。
「こんなところに居たのね、懇親会始まっちゃうわよ。あら、白先生。お久しぶりですね」
妙齢のコレッタが上品に微笑みを向けてくる。
白先生が恐る恐る机の上にある鏡を見ると、そこには60間近のオバサンが居てそれこそ老いて定年退職間近の白先生本人でうわああああああああ!
「うわあああああああ!」
白先生は居眠り中身体を預けていた机を蹴り飛ばし椅子から転げ落ちて目を醒ました。
ゆ、夢だったのか。
「さ、桜の季節なんか、大っっ嫌いだぁぁぁぁ!」
うたたねを誘った季節の陽気に憤怒し、白先生は今日も平常運転だった。
終わり
ホワイトデー系女子!
街の小さなレストランの一人娘・星野りんごは探し物をしていた。
市場で食材探しか、はたまた古今東西の食が織り成す文化の香りか。いや、彼女はまだまだ女子高生。
世間さまにお邪魔をするにはまだまだ若すぎる。ペンとちょっと青臭い野望を抱くお年頃だ。そんな彼女が探しているのは
他愛もなく、何処にでもあるような一冊のノートだった。にんじんの絵あしらったきれいな色の一冊のノート。
星野りんごはウサギだ。あまりうろちょろしていると不思議の国に迷い込むぞと、お節介しても長い耳は受け入れぬ。
周りがランチタイムを過ごすなか、腹の鳴き声スルーしつつ、星野りんごは血眼でノートの行方を追っていた。
東にサンドイッチ摘む者いれば、西に弁当箱並べる者いる。北に焼きそばパンくわえる者いれば、南には……。
「あった?!」
星野りんごのノートを広げ、コンビニおにぎりかじる子がいた。具なしの塩おにぎり。初等部の娘、キツネの子。
歳の割には豊かな胸を携えて、星野りんごのノートをキラキラした目で眺めていた。そして、目が文字をなぞるたびに塩おにぎりは
己の身をキツネの子に捧げていた。
ぱくっと一口くわえると、白い我が身を削りつつ、あのコの胃の腑に収まって。
ぱくっと一口またくわえ、白い我が身が欠けつつも、あのコの笑顔で嬉し泣き。
ぶっちゃけて言うと……美味しそう。
それ以外の表現、この星に存在するだろうか。
星野りんごははやる気持ち抑えながらキツネの子に声をかけた。
「ちょっと……いいかな?」
「ん?あたいのこと?銭取るでぇ?んっと。一億円や」
「……」
「じょーくや!じょーく!」
関西なまりで返事をしたキツネの子は秋の穂に負けない大きな尻尾を揺らした。
その笑顔と引き換えに、手にしている塩おにぎりはまたひとつ身を削る。おにぎりにとっちゃぁ本望。
「このノートなぁ、このベンチに置きっぱになっとってな、あたいも勝手に人のもんのぞいたらあかんやろう思うたけど……」
「……えっ」
「すまんな」
と、言いつつ悩ましげに小指を立てて、キツネの子はページをめくった。
「せやねん、おいしそうやねん!文字しか書かれとらんさかい、逆にもーそー言うか、白いノートがふれんち料理の
お皿みとう見えてくんねん!文字だけでおかずがもりもりあふれてくんねん!あー!ごはんうまいねん!」
星野りんごにはノートがお皿には見えなかった。ノートはノート。絵に描いた餅。所詮、二次元からは抜け出せない。
だが、キツネの子はそれさえでも舌鼓を打つに値すると頬を緩ませる。途中、キツネの子は何気なく細い脚を組み替えた。
たかがの探し物であたふたしている星野りんごは少しだけ猛省した。まるでスカートをめくられたような気持ちだったのが、
めくられたのは星のような笑顔を隠した前髪だったのだから。ちょっとだけの猛省はやがて大きな過小なる自信となり蕾を綻ばせる。
「それ、わたしのノートです!」
残り少なくなったおにぎりをぱくっと口の中に納めたキツネの子はノートを閉じた。
おにぎり。ありがとう。
けっして二度と来ない、今日のお昼のランチタイム。そんな時間を一緒に過ごしてくれた、名も無き塩おにぎり。
そして、主役を食うこと無く、脇役に徹してくれた……文字羅列で綴られた妄想に彩られたおかずたちに敬意。
そして。
ありがとう。
「ほしの……りんごお姉ちゃん!ごちそうさまでした。でんがな、まんがな!」
「わたしのアイデアノート……」
「これならおかずなくてもおにぎり100個はイケるで。ほんま、おいしゅうございます」
誰にも見せることもなく、そんな前提で書いたわけでもない料理の創作ノート。ぎっしりとシャープペンシルの文字で埋められた
レシピは見たままではモノクロだが、噛み締めてみれば食欲をそそる鮮やかなカラーに染まる魔法の言葉だった。召喚獣も勇者も
呼び寄せない魔法陣だが、それ以上の価値、全世界を征服しちゃうかもしれない一品を載せたノートの力をキツネの子は見出だしていた。
「書き溜めてたの。今は作れないけど、いつかきっと作れるようになろうって」
「趣味でかぁ?」
「お仕事……にしたいの」
レストランの一人娘の星野りんごにとっては料理は頂くものより作るものだった。
だから、レシピを常日頃、忘れるいとまもなく頭の中で巡らせていた。
見るもの、聞くもの、口にするもの、感じるもの何もかもをレシピに捧げる腹積もりでいた。
形になるのは遠い日にかもしれないけれど、それでも塩おにぎりとの相棒に選んでくれたキツネの子に星野りんごは意を決した。
ぜったい……料理の神に愛されるってことを。
「りんごお姉ちゃん。ま、がんばりやー」
ノートを星野りんごに手渡し、すくっとベンチから立ち上がったキツネの子。りんごが思っていたよりか小さな体に口を開いた。
「いつか、りんごお姉ちゃんの料理食べにいくで!おにぎり持ってな」
「え?」
キツネの子はにっと白い歯を見せて付け加えた。
「予約は二葉葉狐(ふたばようこ)でな!」
おしまい。
おまけ。
投下、おしまい。ですわん。
「モエと下僕たち」
モエちゃんとのほほん男子は良いと思います!
失礼。こちらからどうぞ。 方言少女が好きです。
キツネさんも好きです。
おませさんなロリっこも好きです。
葉狐ちゃん、書くしかないね。
あたい、片思いしとんねん。なんて、ウソやけどな。
やけど、あたいもお年頃やからステキな彼氏の一人は欲しいなぁ思うてな。
どこで売っとるんやろか?日本橋(にっぽんばし)やろか。白先生に聞いたら遠い目をしてため息ついとったで。
「お腹空いたんかぁ?」聞いたら「朝、食パンしか食べてなくてな」やて。なんかすまんけど、白先生がパンくわえて
ばたばた走っとる姿が思い浮かぶわぁ。朝はだんぜんご飯派のあたいからしたら、そら元気出ぇへんわ!白いご飯や!白米や!
白米食べんと元気出えへんわ!あかん。ご飯のことになると必死になんねん。でもなぁ……あたいも女子や。
「彼氏」が無理なら、片思いしたいねん。すっきゃねん言うても、届かへんのや。いつでも恋しとんねんね、女子やから。
両思いのおともだちやなくて、片思いの恋っちゅーんや。めっちゃステキやけどな!
「くわぁ……」
白先生、あくびしおった。白先生の前で「彼氏」やの「恋」やの言うのは気の毒やからお先に失礼したわぁ。
ほら、あたいって空気読めるオトナやし。
さて、家にとっとと帰るで。こんやは『お好み定食』言うとったけん、めっちゃ楽しみやねん。
朝の白先生やないけど、うきうき気分でぱたぱた廊下を走っとったらな……。
あかん!!あたたたた!曲がり角でヒカルくんにブチ当たってもうた!!
ランドセル担いだまますっ飛んだあたいを見たヒカルくん、えろう驚いてはって、普段見せたことない顔しとった。
(ギャップ萌えちゃうんか?)
いっつも大人しくしとるヒカルくんのテンパった顔なんか、まるで子供や!マンガやこの子!
せやけど……あたい、なんか……「この子、なんとかしてやらなあかんわぁ」思うて。ほら、あたいオトナやし。
それに、これって恋やろか?らぶ・はぷにんぐ、ちゅーやつかいな?
でもな。ヒカルくんみたいな子供はあたいはお断りやねん。オトナの男子ならあたいにピッタリやで!
「大丈夫?」
「ど、どこに目ぇつけとんねん?どついたろか?」
「ごめんなさい……」
……あたいな。転んでもただじゃ起きひんで。学校の廊下には銭が落ちとるぐらい思うてな。
これや!思うたんや。彼氏は売っへんけど、学校中に転がっとるんや。ぐーぜんを装って男子にブチ当たったら、
普段見せない姿を垣間見れるんや。そこにこそ男子の子供っぽさと、オトナの姿が見え隠れしてな。女子のハートがイチコロやで!
せやかて、普通に廊下走っとってもあかんな。なにか「廊下を走るたいぎめいぶん」があらへんかなぁ。
そや!
パンくわえてブチ当たったらえぇんちゃう?ばたばたしとーとから、気ぃ付きませんでした、て。あたい、天才やな。
朝はだんぜんご飯派のあたいやけど、明日はパンやな。こんな切り替えできるあたいってオトナやな。
おしまい。
おまけ。
「あたい、天才やな」
投下おしまいです。 むちっとした絵の発っちゃんの絵師さん、最近みないね
カメラと女子の相性がこんなにいいとは…。
星野りんご・12さい。そして、ロリきょにゅう。
「好きなタイプはジビエ料理が上手い人です」
けも学、映画研究会(創作系)
・ちびっ子元気新入部員、将来の名監督(目標)だ
・背が高いのにちまちまミニチュアコマ撮りアニメが大好きシカオ
・キャメラが古いので別録りが必須なのですマイクマン
・どんな脚本(ほん)でも任せとけ!締め切りは三歩で忘れるゾ!
・選ぶ女優はゴツい娘や太ましい娘ばかりだぞ残念イケメン部長
8m/m映画を創る部なのに、キャメラ三台とも違うフィルムなので、ずいぶんと
コストのかかりそうな部ですこと。 出ます。ウソです。
>>85
BBA本できたよー!
お試し版はこちら。
規制解除きたので投下します。
夏といえば、コレだよね。
姉妹の神様が舞い降りた。
二人の偶然を弄んでくすくす笑う。
「なんでねーちゃん、明日プール行くんだよ!」
「タスクこそどうして被せるの?」
「知らないし!」
夏休みのとある日。タスクは友人たちと、そしてモエも友人たちと同じプールに行く約束をしていた。
それが発覚したのは前日の夜だった。お互い友人との約束なのでこちらのわがままが通らない。
お互い一緒にお風呂にも入ら無くなってしまったお年頃、たまーにモエが女子を忘れて湯上がり姿をタスクに晒す程度はあるもの、
やはりなんだか水着姿は気恥ずかしい。モエはタスクに女子っぽい部分を見せるぐらいならげんこの一発をお見舞いしたいくらいだった。
男子中学生も女子高生もお互いを理解することは粗悪品のジグソーパズルのように合わせるように難しい。
「新しい水着、タスクに見せるのもったいないし!」
「誰得だよ!」
フリルの付いた空色のビキニ。自慢したいのはやまやま、(賛否はあろうが)せくしー姿で身内とともに過ごしたくはないし
モエはとりあえず無防備なタスクの腹をくすぐった。
「そうだ。勝負しよう、明日」
「はぁ?なにで」
「25メートル自由型、どっちが速いか」
「ばかじゃないの?」
提案を一蹴されたタスクは折れずに続けた。
「約束しただろ?またいつか勝負だって。ぼくがボロ負けしたから覚えてるんだけど、まさか忘れたとか?」
「ってか、記憶の片隅にもない。いつ?」
「7年前」
「ばかじゃないの?」
「逃げる気だ」
「新しいビキニのデビューなんだよ?なに?ガール度マジ高い水着でガチ泳ぎさせる気?」
そんな小さい頃の口約束など覚えちゃいない。もっともな話だ。タスクにそんな正論振りかざしても聞き入れる余裕はない。
そして、最後には……特に記さなくてもお分かりだろう。タスクが頭を押さえながら涙目で悔しがっている姿を見れば。
タスクが寝床でじたばたと脚をばたつかせている頃、モエは買ったばかりの水着をベッドの上に並べてたたずんでいた。
出来ればいつか出会うだろう素敵な彼に見せたかった。だけど、今はお生憎さまだから、きっと明日プールで運命の出会いが
訪れるかもと望みを新しい水着に乗せて託そうか。明日は早い。夜更けは速く時が経つ。
当日は突き抜けるぐらい空は青かった。
じりじりと照り付けて来る太陽がプールを促すのでタスクは勢いよく更衣室から飛び出した。
姉とはまだ出会ってはいない。時間差で家を出たので、朝ごはん以来姿を見ない。しばらく姉のことを忘れて友人たちと
クロール勝負でも挑もうかと息巻くが、ちらちらと姉と近い年の娘をみるたびにびくついていた。
「タスク、あっちの岸まで勝負だ!」
「悪いね。アキラとの勝負もらったよ」
プールのふちで拳を突き上げ、早くも勝った気になったタスク。勝てるかどうかは五分五分だけど威勢だけは負ける気はしない。
だが、敵もさるものタスクの勢いを塗りかえるぐらいの気合いでアキラは雄叫びを上げた。
「負けたらアイスおごりな」
「マジ?賭けるの?」
「あたりめーだろ?タスク、ビビってる!」
「タスク、勝負だよ」
「び、ビビってなんかねーよ!」
「勝負なさいよ。ヘタレタスク」
背中を足で突き飛ばされた感覚を残しタスクはプールに大の字になって吸い込まれた。そして水しぶき。もがいて、
もがいてあっけに取られた顔をして、体勢を立て直すとアキラの名を呼んだ。しかし、アキラこそあっけに取られた顔をしている不思議。
プールサイドにはタスクを蹴り落とした張本人が腕を腰に当てて太陽を背に立っていた。流れ落ちる水滴を拭い視界が
はっきりしてきたタスクが見たもの。つややかに、はち切れそうに、紺碧なるスクール水着に身を包んだ姉の姿だった。
「……なに、その罰ゲーム」
「アキラくんと勝負しないんだったら、わたしと勝負!あっちの岸まで、負けたらアイス奢り!!」
「冗談は水着と胸のサイズだけにしてくれよ!」
「タスクと……タスクと勝負するから泳ぎやすいヤツ着てきたんだよ?好きで、好きで着てるんじゃないしー、
もっとかわいいヤツ着てきたかったしー、タスクの為に着て……ってか、誤解するんじゃないよ!ばか!!」
目を泳がせてモエはまくし立て、明らかに浮いた自分のスク水姿を弁護していた。
モエの友人たちは華やかな水着姿を披露しているのに、タスクは早くこの場から立ち去りたい一方だ。
「あっ!タスク!逃げるな!リオ!りんごちゃん!追いかけて!」
「無理だし!」
ばしゃばしゃと荒い泳ぎ方で逃走するタスクを捕獲しようとモエは両足で踏み切って勢いよくプールにダイビング。
太陽に重なる姉のスク水姿がシルエットになる奇跡のカット。振り向くとだんだんと姉の顔がはっきりくっきり見えてくる。
「モエ!だ、大丈夫!?」
リオやりんごが声を上げた頃にはモエはタスクを抜き去っていた。
その日も姉弟の神様が舞い降りた。
幼稚なケンカを眺めながら笑っているはずだ。
「わたしの勝ちだよね?」
「勝負なんかどうでもいいって」
「逃げる気だ!タスクは」
「いいよなぁ。りんごさんみたいな姉ちゃん欲しかったな」
同じ格好で畳に大の字になって寝転びながら軽い罵りあいを続けていると、さすがに二人とも体力を無駄に消耗する。
それでもタスクとモエは言葉のアマガミを止めなかった。
「ねーちゃん。また勝負だよ」
「今度は?」
「7年後」
「ばかじゃないの?」
モエの新しい水着が日の目を見るときをタスクちょっと楽しみに待った。
おしまい。
おまけ。モエちゃんに蹴飛ばされてもいいです!
投下おしまいです。 青空町耳嚢 第12/21話
【無念なり】
住宅街の裏通りで、犬と猫がケンカしているのに出くわした。
激しい争いの末、勝者となった灰色の大柄な猫は、ブロック塀に跳びあがると悠々と去っていった。
あとに残されたのは、満身創痍で倒れ伏している茶色のやせ犬。首にスカーフみたいなものが巻いてあるところからして、飼い犬のようだった。
あまりに痛々しかったので保護して飼い主に連絡しようかと近寄ったものの、その犬はよろよろと立ち上がって去っていってしまった。
その去り際、犬が悔しげに呟いた。
「無念なり」
次はがんばれ、と思わず応援したくなった。
【終】
-------------------------
【8/27】創作発表板五周年【50レス祭り】
詳細は↓の317あたりをごらんください。
【雑談】 スレを立てるまでもない相談・雑談スレ34
http://engawa.2ch.net/test/read.cgi/mitemite/1361029197/ 学園祭って、だいたい何時頃のイベントなんでしたっけか?
>>104
学園祭って、まだまだ先ですか?でも、飛澤さん始めちゃった!
白倉「ぼくも解剖カフェはじめよっかな」
跳月「お客さん、来ますかね」
>>110
オヤツ解剖して断面図とか作るんですかーやったー りんご「わたしも『鉄人レストラン』開きます。(食材さん)いらしてくださいね!」
投下したい新参者だけど>>1の耳尻尾オンリー禁止の意味がわからず
躊躇してます
どういう意味?
>耳尻尾オンリー >>121
身体が人間だと駄目ってこと?
多少能力が人間以上でも
この画像で言えば4・5・6ね。能力は関係ない おっと失礼。4・5・6がこのスレで扱う獣人って事ね
コレッタ「委員長の将来のゆめを当ててみせるニャ!」
リオ「うっ」
コレッタ「すてきな男子に出会って、両思いになって…」
リオ「うっうっ…」
コレッタ「らぶらぶな一年をすごして、卒業式の前の日には」リオ「ぎゃぎゃぎゃぎゃ!SAN値がピンチ!うわああ」
小野悠里おねえさまルートです。
画面は開発中だよっ こんばんはーTV裏です
団子お届けにあがりましたー
ホカペで暖かいので少々ゆるんでます
きじお♂に夜這いされるしろきじ♂
ノーラさんやめて!そこは子供達のトイレよ!!
うわ可愛い。塗りがいつもと少し違うような気がするけどこれはこれで良いな
LEDの明かりが溢れる電子の森を潜り抜ける芹沢と因幡を想像すると、教室の中の二人とは違った顔が思い浮かんだ。
「ツリーがきれいだったし!写メったし!」
煌々と青く照らされた街路樹、ちょっと早いクリスマスカラーの塔。いつもは幅を利かせている水銀灯も今夜は名脇役に徹する。
真っ暗闇になってしまったぼくらの街に舞い降りた期間限定なる贈り物。寒い季節になると空気が澄んで街がより一層に輝きを増す。
そんな光の街を通り抜けて、小高い丘の坂道を三人で登る。
日が落ちる時間が早くなり久しいが、その分ぼくらの時間も自由に使える至福。しんと底つく闇の中で、
明々なる光の門で出迎えてくれたのは、慣れ親しんだぼくらの学校だった。それでも芹沢はイルミネーションの話を続けていた。
「そうだ。犬上、この間教えてくれた本、面白かったよ」
「え?」
「一気読み!リオも読みなよ!」
「その作者のシリーズのコミカライズなら読んだけど……」
「リオ、そのマフラーかわいい!」
話がいきなり変わるのは女子の特権。それぐらい分かってる。分かってるつもり。
芹沢は嬉々としながら校舎の玄関でブーツを脱ぐ。きっと親に泣き付いて買ってもらったであろう、ファー付きの
ショートブーツが垢抜けない簀の子の前に並ぶ。いかにも芹沢のキャラにお誂えでかわいらしいな。
「ありがとう。あれって、読む人によって受け取り方が違うんだけど、芹沢ならきっと好みかなって思って」
一週間前に教えてあげた本の感想だった。ぼくが書いたわけではないが、勧めた本がほめられるとぼくもちょっと嬉しい。
靴を脱いだ因幡は片方の手でスカートを気にしながら簀の子の上で屈んでいた。
なんとなく女子をチラ見せする因幡は大人しい。やっぱり因幡もオンナノコなんだなぁ……褒めておこうっか。
「へー、いい本薦めたね。いいとこあるじゃん。犬上のくせに」
前言撤回。
「どういう意味だよ、因幡」
「犬上、行くよっ」
芹沢は自分のブーツが自分の靴箱に入らないことに夢中になっていた。女の子の悩みは細かいところでふりかかるんだと、感心。
ぼくらが一路目指すのは、教室でもなく、屋上でもなく、図書館だ。今夜の渡り廊下は老若男女で溢れかえって、静かに賑やかだ。
「こんばんは」
「こんばんは」
「こんばんっ」
図書館の入口で司書の織田(おりた)さんがぼくらを笑顔で出迎えてくれた。
眼鏡が良く似合う、長く柔らかそうな髪を束ねた織田さんは、きっとパンを焼くのが得意だろう。パンを焼いたって話は
聞いたことはないが、きっとそうなんだろう。そんな、柔らかな印象を持つ織田さんが忙しそうに本を整理する。
重い本を嫌な顔一つもせずにせっせと運ぶ織田さんは図書館が好きだ。
「『夜図書』始めてから、本のリクエストが増えたわ」
嬉しい悲鳴。ぼくらはそっと織田さんの言葉を耳に挟んだ。
灰色がかった老人は木製の椅子に座り文庫を捲る剣豪にも見える。
昼間はきっと仕事の鬼なるサラリーマンも今宵だけは少年の心を持ったヒーローだ。
つんとすました美人なお姉さんもサイケデリックなホラーに舌鼓。
ここはどんな者にもなれる図書館だ。
ぼくははやる気持ちを抑えつつ、足早に本棚へと脚を向ける。だが、マフラーを解いた因幡は一つ大あくびをしていた。
もったいないなぁ……これからだって言うのに。
「昨日、夜更かししちゃって」
「『夜図書』行こうって言ってたのに?」
「委員長は忙しいんですっ」
果してそうなのか。対して芹沢は広場を得たイヌのようにきらきらと目を輝かせていた。ブーツを入れたビニル袋を尻尾のように
揺らすって、まるでこどもだし。明かりが点る街を見ながら、今宵を共にする一冊を選ぶ贅沢を大人になる前に味わえる。
こんな時期が訪れてくる。ぼくらはまだかまだかと待っていた、夜の図書館がぼくらの学園で開かれる。
一季節に一週間だけやって来る、静かで、尊い時間。
ここに集う者みな、本が好き、人が好き、うつろいゆく四季が好き。
歳も、性別も、職業も、種族も、何もかも問われることはない自由な聖域。
春は夜桜をカーテンに、夏は天の川をスクリーンに、秋は紅葉をマフラーに、冬は澄み切った空気を枕に。
各々自分が好きな季節を背景に書に耽る。中にはそんな贅沢なシチュエーションをよそに活字の世界に浸かる者。
そんな者たちが夜な夜な集う『夜の図書館』。通称『夜図書』。
「犬上、外がきれいだよ!」
冬季限定、街を彩るイルミネーションさえ、小さく見える書痴の窓。
夜間限定、数多に広がる星空さえも、鳴りを潜める文学の小道。
この活字の森に入ることを許されるものは。
@この街に住む者。
Aこの学園の生徒。
Bそして、本を愛する者。
外の景色を眺めながら星の写真集を捲る芹沢。
ハードカバーの感触を味わう因幡。
そして、ぼくは一気に活字へと前のめり。
しばし、ちょっとおいとまします。
おしゃべりができそうにもないので……。
#
翌日は普通に学校があった。
一週間たりとも『夜図書』を逃したくなかったから、平日でも足を運んだのだ。
一晩寝ずに読みまくるつもりだった。
すべての本を読み尽くすつもりだった。
だが、ぼくも芹沢も因幡も夜の魔物に太刀打ちできず、本を枕に夢の中で朝を迎えてしまったのだ。
本当に夢中になってしまうと時の流れは無力なんだ。因幡が寝ぼけ眼でぼくを起こすと、顔を見られるのを極端に嫌がりながら
カバンを肩にかけていた。『夜図書』はおしまい、日差しが眩しい。外のイルミネーションさえも姿をくらます一日の始まり。
本当は明日が休みならば嬉しいんだけど、星明りに集まるオトナたちの為にも開いているっていうから、オトナがちょっと羨ましい。
おかげで生あくびばかりしながら今日の準備を図書館でする始末だ。昨日までの賑やかさがウソのようにひっくり返る。
老人も、サラリーマンも、美人もいない、ぼくらだけの学園が朝日とともに戻ってきた。ちょっと寂しい。
「犬上、リオー。おっはー」
芹沢が制服姿でぼくらの目の前に戻ってきた。 いつの間にか自宅に戻っていたらしい。
やはり見慣れた制服姿だと芹沢も芹沢らしく見えるんだな。おはようを返そうとするとまた一つあくびが出て、芹沢にも共鳴。
「モエも犬上も起きた!起きた!朝イチの授業は目をかっ開いて受ける!」
「化学だよね……」
「リオ、後でノート写させて。犬上はダメ」
いちばん元気な因幡はぼくらの背中を押して大人しく喧しい教室へといざなった。
おしまい。
モエ「超クリスマスって感じじゃね?」
リオ「超……?」
投下おしまいです。 白せんせー、おめでとうございますー!
今年もおしまいですね。
投下します……ん?
『白い夜』
空想が過ぎると、つい甘い物が欲しくなる。
薄暗い部屋の中、乱雑に並ぶ骨董品は、一抓みのスパイスだ。
黒咲あかねは自宅の自分の部屋で、自分の妄想をペンに託して、つらつらと真っ白いノートに書き連ねていたはずだった。
リラックスした時間だから、お気に入りのパジャマ姿だからかもくもくと妄想が沸いてくる快感。そんな気分に浸っていたのに。
それに、愛用していた万年筆がどこにも見当たらない。いつも手にしていたものが見当たらないてことが、どんなに不安なことか。
かちこちと時を刻む振り子時計、ゆらゆらと腕を伸ばす天秤、真珠の輝き色褪せない首飾り。オリオン座が天窓に写る。
暦どおりならば今年最後のオリオン座。ただ、確かな暦さえも把握できないもどかしさ。
自分が見たこともない空間に放り投げられた事実を実感出来ずにいるなんて。ネコ脚の机にチーズケーキが一切れあったから、
ついつい手が伸びてつまみ食い。あかねには覚えのある食感だから、幻覚ではないことを確信した。
知らぬ間に高校の制服姿であったあかねは、いまいち自分が置かれている現状を飲み込めず、口いっぱいの濃厚なチーズを愉しんで
真空管ラヂヲのつまみを捻っていると、真っ白い影がふらりと近付いてくるのに目を丸くした。
人か。
獣か。
はたまた。
あかねと白い影とは自分と明らかに違う姿だと分かった。
ただ、人間であるあかねと同じくように二の足で立ち、まるで大きなイヌのような耳に尻尾に興味が向く。
みどりの黒髪を長く伸ばしたあかねは、白い髪をたくわえたイヌをじっと見ていた。
……イヌの少年だ。
いわゆる『獣人』。ケモノだ。
なぜ、少年?
それは、目が物語る。
「きみは?」
「ごめんなさいっ。勝手にチーズケーキをっ」
「かまわないよ。いつかはなくなるものだし」
白い影の歳はあかねと同じぐらいか。そんな判断が出来る程度にあかねは落ち着きを取り戻した。
一安心したあかねは食べかけのチーズケーキを皿に置く。罪が赦されると思いつつ。
空になった皿を片付けているイヌの少年は、真っ白い毛並みが煤けることを恐れながら、王女を誘うかのようにあかねへと近寄った。
「ここは?」
あかねは素朴な疑問をぶつける。
「ぼくも分からない。ただ、長くはここに居られないはずなんだ」
うっすらと見えるイヌの少年。あかねにも彼の身なりが徐々に明らかになってきた。
ファンタジー小説から飛び出したような、魔法の世界が舞い降りたような。鋼と革で固められた防具と腰に帯びた一振の剣。
長い旅を覚悟の上でのマント。足元はたくましいブーツが守る。二次元でしか出会えないような、一人のイヌの少年。
弓矢を操る白いイヌ、秋の紅葉を背に幻想の空を駆ける刀を振りかざした白いイヌ。
そんなイヌたちの類なのかどうかは分からない。
「行かないと。たたかいが始まるから」
「戦争ですかっ」
「いや、たたかいだよ。時間だ」
イヌの少年の口調はひらがなだ。漢字を好まない少年はあかねを好意的に見ている。はず。
「時間を止めることができれば、たたかいには行かなくてもいいんだ。でも……」
「止めることなんて」
「あの振り子時計をこわせばいい。永久(とわ)にオリオンはぼくらを見守り続けるはずだよ」
天窓の星は遠すぎる。
ヒカルの腰の金具が時計の声を黙らせた。白金にも負けない両刃。イヌの少年は自分の剣を鞘ごとあかねに渡す。
ヒカルと違って素肌の白い手と触れることにイヌの少年はちょっと臆病になっていた。
「冷たい……」
ヒカルは鞘から刀身を出すようにあかねに求めた。
不思議な感覚だ。刃が意思を持って光って見える。柄と鞘が離れれば離れる程に、だんだんと脈が速くなる。
そして、背筋を突き抜ける金属音と共に、剣は本性を現した。ずしりと重い。鉄だし、剣だし。初めて武器を手にするあかねは、
剣先を定めることが出来ずにたじろいだ。黒タイツの両足さえ頼りにならず、一歩前にも動けずに。
対するは振り子時計。素直な心も邪気も持たないはずなのに、巨大な魔王と対峙する気持ちへと麻痺してきた。
針は双方とも重なり合うとき。僅かな針と針の隙間が狭まる度にあかねの呼吸の間隔も狭まる。
「この部屋は居心地がいいね。でも、ぼくはたたかいに行かなくちゃ」
「……」
星を見守るイヌの少年はあかねに背を向けて死の覚悟をしていた。
雑然としている天井裏のような部屋でさえ、心のよりどころになる。
誰かが誰かの救いになる。それが出来ない者など、ろくでなしの極み。
「みんなが待ってる。みんなが救われる」
その声を、その声を最後の言葉にだけはしたくない。もっと彼の声を聞かせて欲しい。
彼はケモノだ。
獣ではない。人が操る最大の武器を彼は持ってるのだから。
意気地無しのあかねは自分の罪を断つように、足元の木目目掛けて剣を振った。
高笑いするのは一日の終焉を告げる振り子時計の鐘だった。
「ごめんなさいっ。どうしても……本当はあなたをたたかいから。えっと」
「ぼくの名前?ぼくは犬上ヒカル」
「ヒカルくんっ。黒咲あかねって子は……ヒカルくんも時間も止められない、何も出来ない悪い子ですっ。
どんな罰でもうけるから、どんな嘲りでも拒まないから、どんな蔑みでも耐えるから、わたしに力を!」
黒タイツの脚揃えて沈むように膝付いたあかねには、恥など罪など全て被るつもりだった。
長い髪さえもすべてを手に入れられるのならば、天帝に捧げようとさえも辞さない覚悟。
「あかねさんはもう手にしてるよ」
誰かが誰かの救いになる。それが出来ない者など、ろくでなしの極み。
ただ、それを気付くことが出来るかは、また別の話。
床に突き刺さった剣とひとつになり立ちすくむあかねは、ヒカルがいなくなる前にヒカルの声が聞けたことに安心した。
いつかは誰もいなくなる。食べかけのチーズケーキさえも、天寿を全うするのだから。
あかねが残ったチーズケーキを惜しそうにぱくりと口に入れる。甘くて濃厚な味が甦りつつ、あかねを慰めた。
「あかねさん。たたかいは終わることはないけど、またあかねさんに会える気がするんだ」
タイミングを誤ったあかねは口にチーズケーキを入れたことを悔やんだ。
なぜならヒカルを言葉で止めるいとまさえも、チーズケーキのお陰で失ってしまったのだから。
チーズケーキが姿を消したときには丸腰になったヒカルの姿も消えた。あかねの手にはヒカルの持っていた、
白金の輝きの剣だけが星の光を写して残っていた。億の値が付くかもしれない骨董品さえもガラクタに見えてきた。
いっそのこと……。
あかねはすべての力を出し切ったように、冷たい床の上、剣を枕にして泥のように眠った。
#
あかねが自室の時計が新年を知らせる音で目を覚ませると、万年筆を握ったまま机に伏していることに今更気付いた。
「24時だ」
一足早い初夢は泡沫になって夜空に消えた。
骨董品もチーズケーキもないけれど、そしてヒカルもいないけど、あかねには万年筆があった。
万年筆は剣と比べて軽く感じた。当たり前だと突っ込まれようが、あかねにはそれが嬉しかった反面、
ヒカルを忘れてしまうのではないか、どこか遠くに行ってしまうのではないかと目を潤るませた。
大丈夫、眠気のせいにしておけ。夜が白いからいいことよ。
キャップをつまみ上げ、寝ぼけ眼で歪んで反射する自分を省みる。
さあ、これから何を書こうか。とりあえず、夢オチの話だけは避けよう。
おしまい。
おまけ。
しろせんせー!暮れも迫った頃に……やりましたね。
投下おしまい。 モエ、タスク姉弟はやっぱええなぁ。
りんごちゃんからのバレンタインチョコだよ。
もらってくれないと○○ちゃうぞ!
はせやんとヒカルくんのバレンタイン。
どぞ。 「ヒカルくん!数で勝負だ!」
「……」
「バレンタインデーに貰うチョコだよ!どれだけ貰えるか、一枚でも多くのチョコを手にいれた者こそ真のリア充!」
「アキラ!もうすぐ白先生が帰ってくるって」
「……」
「ヒカルくーん!」
青すぎる果実が歯にしみる。
保健室の中と外では温度差が違う。
アキラは裁判ゲームの主人公のように犬上ヒカルを指差して、息を切らしながら保健室の入り口で仁王立ちをしていた。
一方、主の居ない部屋でぬくぬく本を読んでいたヒカルは、どこ吹く風かだらりと尻尾を垂らしてアキラを眺めていた。
世間はまもなくバレンタインデー。リア充、非リアが真っ二つに分かれて聖戦を繰り広げる裁きの日。
日頃「もてたい!もてたい!」を口癖にして、青臭い少年の日々を過ごすアキラにとっては、何としても負けることが出来ない日だ。
いや。誰に?とアキラに問うも、明確な答えは返ってこない。おそらく仮想敵国を勝手にこしらえて、燃えているんだろう。
そこでだ。犬上ヒカルだ。アキラの為に、2月14日をハッピーに、めでたくやり過ごす為にアキラはヒカルに勝負を挑んだ。
「さあ!ヒカルくん。また保健室で会おう!」
第一審は閉廷の時間。
法廷で会おう。
昔のドラマの見すぎです。
アキラは友人二人に脇を抱えられて、ずるずると保健室から摘み出されてゆく。スローモーションで見るにも、勿体無さ過ぎる程だ。
本を再び開いたヒカルが目を丸くしていると、ほんのちょっと保健室の温度が下がっているかの錯覚がする。カーテンだって揺れる。
確かにもうすぐバレンタインデー。これに興味を抱かない少年は皆無とでも言えるのか、それとも大人びて萌え出でる3月を待つのか。
迷い多い少年は本で気持ちを紛らわせるしか、選択肢は残されていなかった。
本は優しい。
ぼくらを優しく包むお姉さん。
でもさ……時折、厳しいんだぞ。
努々油断すること勿れ。
ね。ヒカルくん。
「……」
ヒカルは書の杜に迷い込んでいた。
ふと。
音が。
こん!こん!
びくっと尻尾を振り上げる。
保健室の窓を叩く音がヒカルの手を止める。
本を読む手を止めて、窓の鍵を開けると外から一人のオトナの女子がにこにこと笑っていた。
「ヒカルくん!ちょっと早いけど」
彼女はヒカルのクラスの担任だ。二十過ぎた女の先生だ。ヒカルからすれば、オトナの女……お姉さん。だけど、ヒカルのことが……。
好きだ。
でも、オトナの癖に何故か制服姿が被って見える、泊瀬谷が目を輝かせて窓が開くのを待ちわびていたのだ。
「お口に合うかなぁ」
「ぼくは雑食ですから」
「そっかぁ」
泊瀬谷がここに来ることを前もって知っていたヒカルは、訪れたひと時の安らぎに甘えつつ窓のさんに腕を乗せて、
校庭の泊瀬谷を妹のように眺めていた。後ろ手で隠していた小さな紙袋を自慢げにヒカルの目の前に突き出した泊瀬谷が目を背ける。
品の良い紙質に、リボンをあしらった紙袋の重さはヒカルを喜ばせた。重ければ重いほど、浮き足立つ不思議。
ヒカルが泊瀬谷の目の前で紙袋を開け、中身を取り出す瞬間、泊瀬谷は俯いて存在を悔いるようにぼそっと呟いた。
「随分、探したんだぞっ」
「先生っ」
ずっしりと手に圧し掛かる泊瀬谷の思い。
微かに鼻腔をくすぐる香り。
そして、表面に書かれた心躍る文字。
「わぁ……」
「ヒカルくん好みでしょ?先生は何でも知っているんだから」
出来ることならば、今すぐここで味わいたい。
でも、コドモみたいと笑われるかもしれないから、ヒカルはぐっと泊瀬谷の贈り物を抱きしめることにした。
「今度、感想聞かせてね」
「先生っ、誰かが」
「じゃねっ」
焦った表情を浮かべてヒカルは窓を閉めると、自分の顔がぼやけて写っていることに目を丸くした。
泊瀬谷とヒカルを遮断する窓ガラスが硬く口を閉ざしているけど、ヒカルの余韻は未だに続いているのだった。
「犬上。どうした」
声は保健室の主・白先生。三十路を頂戴して久しい白先生はこの時期がアキラのように憂鬱になるどころか、諦めさえついていた。
バレンタインデー?ナニソレ……と、とぼけることがオトナの流儀だと信じなければならないお年頃だ。
白先生はヒカルの手に収まる泊瀬谷からの贈り物が気になり、ちらりちらりと目線を合わせていたが、ヒカルはわざと揺らしていた。
逆光が味方して、泊瀬谷からの贈り物は白先生にまともに届かず、白先生は尻尾を大きく揺らして機嫌を露にしていた。
ヒカルくん、これがオトナってやつだ。
「何を持ってるんだ?」
「『ショ・コラ』です」
「チョコ?」
「いや……『ショ・コラ』です」
泊瀬谷からの贈り物の名前を素直に話したヒカルに、白先生は近づいてひとつデコピンをお見舞いした。
「オトナをからかうんじゃないっ」
「……すいません」
「しかし、なかなか良いチョイスをするなぁ、お前は。その本はわたしが『じぇーけー』時代に読んだ本だぞ」
「『じぇーけー』……」
「すまん、犬上。女子高生だ」
「はぁ」
『ショ・コラ』とアルファベットで書かれた表紙が古臭さを感じさせず、書痴の琴線をくすぐる一冊。
ヒカルが読みたいと思っていた本を泊瀬谷に教えていたが、それが贈り物となってヒカルの手に届くなんて。
奇跡は願えば必ず叶う。本の出会いにヒカルは天にも昇る心地だった。イヌの背中に羽根が生えたっていいじゃない。
「しかし、この本……。読んでてホント甘くなるよなぁ。これだけのチョコレートの話をこれでもかって」
「そうなんです!チョコレートにまつわる短編集って、余り聞かないじゃないですか!でも、それを一つの作品として
纏め上げて、さらに綿密に張り巡らされた伏線だって最後の最後まで引っ張ってぼくらを飽きさせないって聞きましたから
この本を読まなきゃ!って。ぼくが生まれる前に書かれた本との出会いって……奇跡ですよね、白先生」
この本は白先生がじぇーけー時代に初版が発売されたものだった。
『ヒカルが生まれる前』というフレーズに軽くショックを受けつつも、白先生は窓の外を覗いた。
2月14日の放課後。
第二審の開廷だ。
保健室にはヒカルとアキラ、そして弁護団。つまり、アキラの友人たちが、ぐだぐだとカーテンに巻きついていた。
アキラは手をぎゅっと握り締めて自信満々にヒカルに吼えた。泊瀬谷が贈った本をぱらりと捲りつつ、アキラの遠吠えを耳にした。
「さぁ!ヒカルくん!幾つ?」
「……」
「おれは……おれは、一つだ!!いや……」
誇るべき戦績だと思わないかと言わんばかりに、アキラは瞬きを繰り返して判決のときを待った。
一つで充分。
たった一つ。
どちらとも取れる結果にアキラの如月の風が薄ら寒く吹き抜けてゆく。
「で、ヒカルくんは?」
第一章はガトー・ショコラ。
第二章はチョコレート・パフェ。
第三章はチロルチョコ。
泊瀬谷からの贈り物の本に登場する幾多のチョコレートを数えているうちに、本当に口の中が甘ったるくなってきた。
思わずヒカルは指折りながら……。
「えっと、六つ?かな」
「まじ?」
これにて閉廷。
アキラが膝付いて目を丸くしている側で、ヒカルは活字に目を奪われる喜びに溺れながら第六章の板チョコを味わった。
おしまい。
そんな中、ルイカと真面目のまー子の委員長は…
投下おしまいです。 ネコの日、おめでとうございます。
『夜食テロ』
画像フォルダから自慢の一枚をネットの海に投下すると、この世を司る全知全能な神になったつもりになる。
二柱の神が混沌とした海を矛でかき混ぜて、大地を創生する気分がひしひしと良く分かる。
下界の民よ、我が手の平に詰られるがよい。支配者は支配される者がいて、初めて存在しうるのだ。
深夜二時過ぎた2月22日、世間はネコの日で賑わうなか、ウサギの少女がネットの夜空で呟きながら、
深夜2時のネコの日で浮かれるネコたちを夜食テロで震え上がらせていた。
ネコの日だから、呟きだらけのSNSサイトでは『#ネコの日』のハッシュタグで、ネットでもネコたちの祭典で盛り上がる志向だ。
ぐだぐだと、ゆるゆるとネコらしく。生産性を求めずに時間を共有するだけで、二言三言の会話で過ごす年に一度の夜。
「ふふふ。ネコたちよ。わたしの料理に喉を鳴らすのよ」
クリック。クリック。
画像を選択。
OKですね?
アップロード……完了。
見ているだけでも舌が垂涎する画像がSNSサイトに一枚現れた。画面からは香りはないものの、
不思議とくんくんと鼻をならしてしまう一品だ。しかし、それは序の口。
これでもかこれでもかと何枚もとタイムラインに貼られ、たまたま居合わせた者どもは揃ってお腹をぐぅと鳴らす。
「鮭のムニエルはどうかな。ついでに人参のソテーもつけちゃう」
「鯛のカルパッチョは外せないよね。あっ、函館のイカ飯もいいな」
「鰯のタタキもイケるよね?」
実行犯のウサギの少女・星野りんごは料理が得意だ。家が小さなレストランだということもあり、
料理に関しては誰よりも自信があった。そして、料理たちはデジカメで丁寧に画像として残されていた。
幾多の料理画像をお腹が空くこの時間に狙って投下する密かな楽しみだ。アカウントも「ネコのJKです」と、
種族を偽ってネコの夜会に電網上ながらに参加してみた。ネコたちの舌の琴線を狙ったのも彼女らしい。
「いいよなあ。ネコの日があって」
りんごの計画通り、腹を空かせたネコたちがこぞって料理画像をリツイートしていた。
夜食テロ、恐ろし。午前2時18分、夜の闇はネコだけのものじゃない。
#
その頃、覚束ないフォーク捌きでカップラーメンをすすると、真っ白な口元の毛並みがほのかに染まった。
白い子ネコのコレッタはひんやりと肌寒い川辺でネコたちにとっては特別な夜を過ごしていた。
ネコの日だから夜更かししてもオトナたちから怒られることはない。むしろ、夜を共に過ごすことを歓迎される。
パステルカラーのダウンジャケットを纏い、ぴかぴかのブーツを自慢すると隣でスマホをいじるオトナのネコに笑われた。
感情に素直なコレッタは尻尾を膨らませていた。周囲ではざわざわと静けさとネコの群れがあたりを賑やかす。
白黒模様で耳が欠けたカギ尾の男。髪は顔の半分に被さり、少年を拗らせた悪いオトナの見本のよう。
ただ、彼からは紳士の余裕がほのかに感じられた。自由人を絵に描いたネコはコレッタのカップラーメンをにまにまと眺めていた。
「美味いか?」
「おいしいニャ」
おいしいものは気持ちを晴れやかにさせることを証明。素直に答えたコレッタはカップラーメンを恥ずかしげにそっと隠した。
午前2時20分。
コレッタ未踏のオトナの時間をカップメンと共に過ごす。
「世界各国を飛び回ったおれもいろんな物を口にしたなぁ。だがな、一番美味いのは……」
「おじニャん、なにやさん?」
「写真家。世界中を撮り尽くす不肖・浅川とはこのおれさ」
写真家の意味さえも分からず、ただの気のいいおじニャんだと捉らえたコレッタは、口から白い息を吐き出して春の訪れを待ち侘びた。
「ふーん。鰊の漬物に石狩鍋か。どれも食材の旨味を活かし、じつに美味そうだがな……」
スマホの画面に食らいついている浅川にコレッタが興味を抱いた。オトナのやることなすこと気になるお年頃のJSだから。
そんな子ネコに浅川はただ一言。
「世界中で一番美味い食べ物を自慢してやるか」
ぱちり。
午前2時22分。
時は来た。
「わー!」
「ネコの日、おめでとう!」
「ねこおめ!」
「おめでとう!」
コレッタと浅川の周りから歓声が花火のように上がる。ネコたちによるネコの日のお祝いだ。
黒の闇が色とりどりに染まる瞬間を目の当たりにするかのよう。
全国的に2月22日午前2時22分、どこもかしこもネコの日だから。
「おじニャん、どうしたニャ……?」
「おれってさ、浅川だから」
カップラーメンを片手に固まったコレッタが脚を揃えた。
真っ黒な夜に湯気立つラーメンの写真。写真家とはこうだ、と言わんばかりに浅川は得意顔だった。
「送信っ」
#
星野りんごのパソコンにコレッタの食べるラーメンが映った。りんごのSNS夜食テロ作戦は新たな脅威によって壊滅した。
流れに乗ってはるばるネコの夜会の河原からやってきた画像にりんごはごくりとつばきを飲んだ。一口ちょうだいのセリフが漏れる。
りんごが作ったどんなに立派な料理よりも、遥か遠くの一皿でさえも、この時間、この景色ではコレッタのラーメンに軍配が上がる。
理屈ぬきに暖かく、誰の舌を楽しませるから。
窓からネコたちの声が聞こえてくる。
「ぐうぅ……いいなあ、ネコは」
ウサギのりんごは陰からネコの日を祝いつつ、カップラーメンを作るためにやかんでお湯を沸かしはじめた。
おしまい。
にゃー!
投下おしまいです。 コレッタとカップめん食べたいおっお
投下おつっす〜
コレッタ「『ミャー、ニャンニャン』」で、ねこの日ニャ」
『二週間遅れのホワイトデー』
「ってか、ホワイトデーってなんだろうね」
答えの見付からない問い掛けなどいらない。
隣でため息ばかりの友人への返答は目で送ればいい。
ウサギの因幡リオの結論はこうだ。
二人並んで長い歩道橋から地上を見渡す。だだっ広い貨物ターミナルを一気に横断する橋の上では、なんでもない悩みも
素直に共有できる。なぜならば、秘密の話も線路が軋む音で全て掻き消されるからだ。
アスファルトの地面の上、おもちゃ同然に整然と積み重ねられたコンテナの実直さ。曲がったことを許せないリオには、
どことなく自分と重なると過大評価してしまう。学校帰りの寄り道、日が長くなったから、見たくないものまで見えてくる。
リオは少し錆び付いた手摺りに前のめりに身を委ね、広大な敷地をせかせかと動き回るフォークリフトを目で追った。
「モエはいくつもらった?」
「教えない。ってか、リオは?」
「教えない」
「なにそれ。ずるいじゃん」
なんか、ずるいことした。
真面目が取り柄の自分だけど、リオと違って軽いモエに近付けたと、好意的に錯覚することにした。
リオと同じ格好で、イヌの芹沢モエは耳をおったてていた。ホワイトデーの恩恵をさほど受けなかった二人もやはりオンナノコ。
誰よりもピカイチに見られたいし、光り輝くあまたの星も全てわたしのものだからと、猫撫で声で腹の探り合いだ。
ただ、両者とも隠したい場所は山ほどあるから猫撫で声は遠吠えに変わってしまうザンネンな夕暮れ。鉄と錆の音を立てて、
コンテナをわんさと積んだ長大な貨物列車が二人の足元に吸い込まれるように近付いてきていた。
列車が歩道橋を潜り二人の足元を掠めるように通過してゆくとき、止められない流れことだってあるんだと二人の胸に刻んだ。
抗がえば、抗がうほうど、自分を深く傷つける。
「だから、リオにあげたんだしー」
「何を?」
「ってか、わたしからのホワイトデー」
今更、ホワイトデーだなんて。しかも二週間遅れだし。
過ぎ去ったものを引っ張り出してまでこだわるのはリオには痛痒い。
それに反してモエは何度も初恋が訪れたような淡い笑顔を含んでいた。
「そういえば、ハルカはいくつもらったんだろね」
「ハルカは彼氏持ちじゃん」
「だよね」
「だから、二週間遅らせたしー」
「……そうだよね。ウチらとハルカを比べちゃうからね」
「一週間じゃ足りないしー」
リオのメガネに屈曲して写り込むモエからのホワイトデープレゼント。女子らしく水色のリボンで装飾された手の平サイズの包みが、
褐色の線路が弦のように並ぶ鉄の背景に浮かび上がっていた。
ここから見ればモエの包みも地上に並ぶ貨物列車のコンテナも同じサイズに見えるけれど、アイツらは真面目一直線だ。
四角四面の塊とはちょいと違う。そっと胸にしまい込めるモエのプレゼントに女子らしいひねくれを感じた。
電気機関車に牽引された長くたゆみないコンテナ列車が、そろりそろりとターミナルから旅立ってゆく。どっかに旅出る理由など
考えれば、後乗せすればいくらでも見つかるのだが、理由を探すとうやっぱり苦しくなる夕暮れ。
「あの列車、どこに行くんだろう」
連結器同士が互いに手を繋ぎ、がちゃがちゃと金属音を撒き散らせる間に秘密の話しをしておきたい。
間が悪いのか、そんなときに限って思い浮かばず、どうでもよいことを尋ねてしまう因幡リオ。
「ウチらの知らないところじゃね?」
「そんなところあるの?」
「リオ、マジで知らないの?」
きっとわたしたちには分からないものがたくさんある。例えば、ホワイトデー。
歩道橋の手摺りからモエの包みがころんと落ちた。まるで小鳥が篭から逃げ出すように。
包みはコンテナ列車の屋根に落下して、モエとリオが知らない街へと連れ去っていった。
おしまい。
モエ「早く渡り終えた方に奢り!」
リオ「まじ?」
よーもーぎーもーちー。
って、もう子供の日なのね。
ケモスレには幼女しかおらんね!
>>177
コレッタ、かわええ。みゃー。
幼女風呂やー。
帰り道。
『花の種』
ちょっと目付きの悪い男子高校生が花屋の店先で花束を抱えていた。
とんがったケモ耳だからか無条件に不機嫌な雰囲気に見える。
それの何がおかしい。
笑いたければ笑え。
その代わり自分で責任取れよ。
薄黄色のパーカーにエプロン姿の彼は捻くれた気持ちを薄っぺらくあらわにしていた。
「こっちの花がいいわ」
「早く決めろよ」
「でも、あっちの花もよくない?」
遊びなれた感じのネコとイヌのカップルがじゃれ付くように花を選んでいる。
店内でのいちゃこらはお断りだと、言わんばかりに男子高校生の店員は口元を震わせていた。
あんなオトナにはなりたくないと、彼は抱えた花束をそっとレジカウンターに置いた。
「でも……」
「いいじゃんいいじゃん。おれが金を出すんだから」
「だって……」
四の五の言わずに金を出せ。お前らいい歳したオトナだろ?
頭はゆるいが、財布の口はかたいんだな?
犯罪犯したら名前が万人に知られわたるようなヤツだろ?
デモデモダッテと唱えていれば、わたしびっちでかわいいこ?
おもっているよりかるくはないから、かるい子だとおもってほしくないからデモデモダッテの大合唱?
そんなカップルの客に水でもぶっ掛けてやろうか?マジ邪魔なんだけど?
「ルイカくん。花は人の気持ちを解するよ」
男子高校生の店員は自分の名前を耳にして、自分が抱いた悪意の塊を飲み込んだ。
声の主は鋭い牙を持つ彼さえも子猫のように扱うのが慣れているらしい。
「『くん』付け?もしかして、いい人ぶりアピール?」
「店先は戦場です。どんなお客様(あいて)でも、きちんとお相手(げいげき)しましょう」 ルイカと呼ばれた少年はこのあたりでは珍しいカルカラと呼ばれる種族だ。
とんがった耳に鋭い眼光。ただ、そこにいるだけで目立つネコ科の種族だ。
目付きが悪いのは仕方ないとして、愛想まで引きずるのは御免被りたいと少年よりちょっと年上の娘は笑った。
ただでさえ男子高校生が花屋で働いているのは目立つのに、カルカラという種族だ。店の評判に関わるので、
出来るだけ愛想よくしてほしいと娘は願うが、男子高校生のやることだと見逃すしかない。ふん、とルイカは花束をバケツに生けた。
「昨日ね。センセイの生徒さんが書いた小説読ませてくれて、寝不足です」
「センセイ……ああ、帆崎な」
ルイカを『くん』付けする娘の旦那さまは高校教師だ。ルイカもお世話になっている。古文を教えているとのこと。
なので、文章にはちょいとうるさい。教え子が書いた小説に帆崎が興味を持ち、あれこれ形にしてあげたいとのこと。
ルイカには作り物の話などとんと興味はなかった。
「面白かったです。次回作が楽しみですね」
「あそ」
「その子遅筆でねー。次回作が何時出るのか分からないのね」
花は人の気持ちを解すのか、娘の周りの花々はいつもより輝いて見えた。
「ルル姉いいのかよ。出掛ける時間だろ。配達……」
「はいはい。労働少女、行きます」
少女?成人してるだろ。
人間の娘であるルルは外の日差しを気にしていた。ルイカは「まだ行かねーの?」と素っ気なく聞くが、
日焼けを気にするルルの乙女心をまだ理解していなかった。
「日傘、日傘」と出支度するルル。ルイカはルルが出掛けることでつかの間の休息を願っていたのだが、まだまだ遠い。
客でも来たら面倒だとルイカは心の中で毒付いたが、むしろ一人のときに来られても困ると複雑な顔をした。
そのうち、店内でうろうろしていたイヌネコのカップルは何も買わずに去ってしまったが、むしろルイカにとっては
風向きがよい方へと変わったとしか受け取っていなかった。
願いは叶う。
ルイカの為にではなく、意地悪の神様の為に。
一人のウサギの少女がおどおどしながら店先を右往左往していたのだ。
客だ。客が来てしまった。面倒だが迎えいれなければ。相手は小学生並の背丈の少女だ。ロップイヤーで三つ編みスタイルが
いやがうえにもロリ力(ぢから)を全開させている。
「いらっしゃいませ!ルイカくん、お客様ですよ」
エプロンを脱いだルルのアシストがルイカを突き抜ける。
♯
連休の間でもいいから、ウチの店で一緒に働きなさい。
#
ルルからの提案にルイカは反発できなかった。
あれやこれやと理屈を付けて断ってもこちらに利はない。
むしろ門前払いは身の破滅。女の子って、幾つになっても怖いんです。
ルイカは渋々とルルの働く花屋でアルバイトをすることにしたのだ。力仕事が意外と多いから男手があるのは助かると、
店主も歓迎はしていたがルイカには今ひとつ面白くない。暇潰しの為のようにルイカは花屋の店先にいた。
そこに現れた客。
ウサギの少女はいまだにおどおどとしながら店に入ろうとはしない。
ワンピース姿が勿体ない。
花屋というシチュエーションは、三つ編み少女にお誂えだというのに。
店の奥でルルが花の種の袋をさっさと振る。その音に引き寄せられるように少女は店内に入ってきた。
ルイカの鼻先を少女の頭がかすめ、ふんわりとした香りをルイカの鼻孔をくすぐった。
「お探しでしょうか」
「……えっと」
「何でも聞いて下さい、ね」
ザッツ・営業スマイル!
一言一言に少女はびくつき、ルイカは仕事をするふりをして視界から遠ざけていた。
ルイカはどうもこんな娘が苦手だ。ルルのように勝ち気な娘も苦手だが、真逆な性格も手を焼く。泣かれたりすれば、
どうしようもない。涙は武器、最終兵器だ。ルイカは命乞い無視してぶちまいて、ジェノサイドをかまされることが不愉快だった。
「分からないことありましたら、彼に何でも聞いてくださいね」
「はぁっ!ルル姉?!」
ルルはそんな言葉を残してルイカと少女の二人っきりの舞台を作った。
健全なる男子高校生ならば、もしかして恋愛フラグがびんこ立ち?といくものだが、残念ながらルイカは(性格が)健全なる
男子高校生とは言えなかった。そんな場面を尻目にルルは日傘をさして配達へと出掛けていった。
残されたのはルイカと小さなウサギの少女だけ。
いかにも作られたシチュエーションに見えるだけに居心地が悪い。
「あ、あの」
「……」
「花の」
花の?ってなんだ?
声、ちっちゃくて、聞こえねーし。
おれ、ルイカって名前なんだけど。
売買契約早く交わしてくんないと、時間まじもったいないんだけど。
「ごようはなんでしょうか」
なるべく低姿勢で。ルイカは店員を演じるふりをしつつ、面倒な時間が過ぎるのを待った。
誰かの真似をするということほど、ルイカにとって苦痛を感じるものはなかった。針の筵の上でスクワット千回の刑なんて。
「花の種下さい!」
なんだそりゃ。さっきルル姉が持ってたからとっとと言えばいいのによ。ルイカは感情を抑えつつ花の種の袋を指差した。
少女はぱたぱたとぜんまい仕掛けのおもちゃの動きでルイカの指先の方へと駆けた。
じっと色とりどりの花が描かれた袋を見つめ、思案を重ねているようかに見えた。結局、少女が選んだのは朝顔の種。
今日び小学生でも選ばないぞと、それだけ悩んでそれかよと呆れるルイカは首をこきっと鳴らした。
「あ……あの」
「はぁ」
「違うのにすればよかった、ですかね。でも、こっちもいいかもですし」
聞かれても困る質問ほど困るもんはない。少女はレジに品物を差し出すのをためらった。
「あっちがいいかも。でも……」
「どれも同じ値段だし」
「だって……せっかく買うのに」
「どうせ、買うんだろ」
少女の消えそうな声を掻き消すようにルイカは『キンギョソウ』の種の袋を奪い、乱暴にレジ済みのテープを貼った。
「デモデモダッテ?そんなオトナになるなっ」
「ひっ!」
「持ってけ。ルル姉いないから内緒だっ」
「で……」
言うまでもなく、少女の言葉は「でも」だ。だが、ルイカを信頼するように少女は言葉を飲み込んだ。
花の種を手に入れた少女は、自分の周りに一足早く花咲かせながら店を後にした。
それを確認したルイカはそっと自分の財布から硬貨を取り出してレジに忍び込ませた。
#
連休が過ぎ、日常が戻る。
ルイカも勤労少年の日々を忘れ去りたい思い出にすることが出来てほっと胸を撫で下ろしていた。
廊下から窓を覗いて風に当たる。こんなしあわせなことが花屋では出来ないなんて。
校庭に咲くちいさな花々。金の匂いを沸き立たせずに眺めることが出来るなんて。
「たりー……」
悪態をついてくるりと回れ右。ポケットに手を突っ込むのは癖だからあまりいちゃモンつけるなよ、とルイカは一歩足を出すと
その足にちいさなウサギの少女がつまづいた。ばさっと大きな音を立てて、抱えていた数冊の本をあたりに撒き散らす。
ころりころげたウサギの子。
じっと待っていたんじゃないけれど、ウサギが一羽ころげて木の根っこ。
「ったく!おれ、こんな面倒、お断りなんだけどなー」
膝を押えて、涙目ながら顔を上げた顔に見覚えは無いか。
「あ……」
連休の日に花の種を買いに来た少女だ。ワンピースではなく制服とスクールベストに身を包んだ、古風な昭和の香りただようJKだ。
おどおどとした態度、涙溢れだしそうな瞳。忘れたくても忘れられないウサギの娘との再会にルイカは口元を震わせていた。
世話を焼くことが苦手なルイカは散らばった本を拾ってやると、はさんである栞に目を奪われた。
栞……ではない。小さな紙袋、上部が切り取られて微かに土の香りがする。
『キンギョソウ』の花の種。
乱暴に貼られたレジ済みのテープも端っこがめくれかけていた。
「気をつけろよ。お前が怪我したら、花の世話するヤツいねーだろ」
紙袋の栞をはさんだ本を心底大事そうに抱きしめて、ウサギの少女は慇懃にルイカにお辞儀をしていた。
ふと、がらっと窓が響く音がする。
「おーい、ルイカ。笹野をいじめるんじゃねーぞ」
「いじめてねーし」
教室の窓から廊下に顔出したネコの男がくたびれた顔で割って入ってきた。野次馬なら人参くわえて失せろと、
一矢報いたいけど、相手はネコだ。しかも教師だし。古文教師の帆崎だった。
「笹野は筆、進んでるのか」
「ひゃっ。あの……あの、帆崎せんせ……」
何もそんな話をルイカの前で……と言いげに、笹野と呼ばれたウサギの少女は耳を伏せたい気持ちで目を丸くした。
「ザッキー、まじ鬼畜。怯えてんじゃん」
「笹野はいつも通りだ。外道からにゃ言われたくないな」
「だから、いじめてねーし」
「この前書いたヤツ、面白かったぞ。やっぱり美女と野獣は永遠の鉄板だな。美女の大胆さと野獣の繊細さのコントラストが絶妙だ」
ルイカは思い出した。
ルル姉の寝不足の理由。
窓枠から乗り出した帆崎は紙袋の栞がはさまった本を笹野から引ったくると、栞がはさまれたページを開いた。
本とともに育ったから、本の扱いは慣れている感じだと言わんばかり。
「新作も早く仕上げないと、キンギョソウが咲いてしまうぞ。おれは待てても花は待たんからな」
「……で」
ルイカが笹野をちらと一瞥。
笹野が言わんとする一言を察したのだ。
「花はいつも前向きだ。後ろ向きの花をおれは見たことないな」
「……あの」
「しかし、いい花選んだな。待ってるぞ」
「あの……あの」
笹野はルイカがいてくれたからちょっぴり自信がついた。
しかし、笹野はその事実さえも否定するかもしれない。本をぎゅうっと抱きしめるて場を濁す。
「デモデモダッテ」は口にはしないけど、それだけでも御の字だ。
ルイカがよそ見ををしている隙に。
「はいっ」
笹野は心地の良い身震いをしていた。
おしまい。
動画添附禁止 裁判 遠隔キンピラ 詐称 ハウスアメリカNHK
動画添附禁止 裁判 遠隔キンピラ 詐称 ハウスアメリカNHK
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白先生、運動会の季節ですよ。
着替え後の教室に忍び込んじゃダメですよ。
むしろ一緒に着替える。というわけでジャージBBA誰かはよ
,ィ廴  ̄`゙''ー‐--、__ ヽ \ \
`、 \ `丶 〉 \ ヽ、
`、 \ _,.-‐''"´ ̄ ,イヽ、丶、〉 ヽ、
\ ヽヽ _,.-''" , ', イ"',, ヽ
丶、ヾ, イ \
/ ///\ ヽ、 丶
/ {{,,//-  ̄ \ ', ヽ
||=,/ 二ニ .ヽ、 〉 }
| ,/ 三彡 ̄ ̄ ', / |
| i| 三彡 ,. ニ== .! / |
| ! l ` -―--、,,___ ! 〉 〉 / ',
ヽ /王ミ i゙ | } ! ! ! /! \
., -‐ て7 }´~~ `}===゙、 | | | ! ! / /、 \ \
, - ‐ ゙ | 丶__ // !/ ///!/ ヘヽ、 ヽ \ ゞ
{.~ 丶 ノ ヽ |/,ノ \\ ゝ \ヾ/
 ̄` -、 r ┴- .―´ i___ __}  ̄ \ /
- _ ` -、_/ }--、_ ,.´ { { { { \ , -‐¨ ̄ ̄`ヽ、 /
`ヽ ___ } {/ 川川川川川川 / 丶/
丶 てヽ{ ヽ {{{ { 彡{゙´ / で 用 言 ま 丶 /
__ ` } - ,.ノ 丶 /. す .意 い ず i /
~~ / ヽ __/. よ す 出 は i /
/ ヽ `l : .る .し. i/
. r ´ ヽ l ? べ っ i
..{. ヽ l き ぺ /
.| ヽ 丶. が /
.i 丶 丶 /
まるで(いろいろと)成長していない。
BBAだってスク水着たいし。
一緒にプール入りたいし。
コレッタ「こんな『妖獣ウォッチ』いやニャああああああああ!」 >>173
>>174
「よもぎもち」「よもぎもち」って考えていたら、なぜかチェンジしていた…。
だけど、書いちゃった。
投下します。 いつもは本ばかり読んでいるヤツが、こともあろうに市民プールにいる。
それだけで、なぜにそこにいる理由を聞きたい欲がもくもくと湧く。
インクの代わりに塩素のにおいがつんと鼻をつき、乾き切らない髪の毛はダウンライトに照らされてきらりと光る。
100パー文学少年を地でゆく犬上ヒカルが、じゃばじゃばとバタ足している姿を想像すると、なんとなくおかしく感じてしまう。
夏の青空の装いに包まれた因幡リオは素直にそんな内容の言葉をヒカルに伝えた。
「ぼくだって、泳ぎにぐらい行くよ」
「まじ?犬上って、休みの日は部屋か図書館にヒッキーなイメージだし」
お互い私服姿をさらすのは、よそよそしさでどこかくすぐったい。
誰に見せるためのもんではないが、ワンピース姿のリオは自分の太ももをヒカルにさらすことに抵抗はなかった。
家には弟がいるリオにとっては、同級生の男子などは年下以下の子供扱いだ。一方、一人っ子のヒカルは、同級生のリオでさえも
おしゃれの霧に塗れた、光輝く、色のにおいたつ、ませた一人のレディに見えてきた。
女子高生に人気のブランドもののバッグを肩にかけたリオが、自分のサンダルをロッカーに仕舞う後ろ姿さえも、
ヒカルには背伸びしても届くことのない、高嶺の花咲く女性を意識させるものだった。
「今、すいてる?」
「うん。でも小学生たちが来るかも」
「まじ?そうなの?やばいじゃん。ってか、知ってるの?」
「この時間はね」
時計の針は午前のまま。
良い子で真面目な、まー子の時間。
「むー」
おしゃれいっぱいなリオは唇をかみ締めた。
市民プールの受付は清々しい空気が淀むことなく行き交う。
職員とすれ違うたびに、体育会系の挨拶が飛び交うからだ。
「こんにちはー!」
「お疲れ様ー!」
にこやかな笑顔が厭味なぐらいに爽やかだ。
そういえば、同じ市の施設である図書館とはえらい違いだと、ヒカルはここにくるたびに戸惑いを感じていた。
ヒカルは職員たちの目を避けるように、玄関脇のロビーの椅子に腰をかけた。ずんと疲れが腰に落ちる。
なのに、ヒカルはスポーツバッグから一冊のハードカバーの本を出し、栞のページまでたどっていた。
ぴかぴかの女子丸出しな財布を片手に、リオはヒカルの行動に義務感溢れるツッコミを浴びせた。が。
「続き、気になるし」
と、あっさりしたヒカルの答えにリオは納得がいかなかった。
誰だって、響かぬ太鼓など興味はナッシング。
「そういえば。表にわらび餅屋さん……いたよね」
自転車で荷台を引いた移動販売のわらび餅屋。
市民プール前に夏季はちょくちょく現れるらしい。
涼しげな装飾に、何故か萌えボイスの売り子の声が痛々しくも微笑ましい。
本とリオの財布にヒカルは目を移し、売り子の声に耳傾けて、夏の始まりを五感で受け止める。
「これからボディに磨きをかけて、女子力アップをたくらむわたしを誘ってる?」
「いや、ああいう売りに来たわらび餅って、コンビニのよりも美味しいし」
「おごれっ」
予期せぬリオのむちゃなツッコミにヒカルは目を背けてささやかな抵抗を見せた。
#
ヒカルの予想通りプールは空いていた。
だだっ広い市民プールは夏の香りが漂う。高い天井が開放感をいやがうえにも煽っていた。
中央のコースでは、がっつりと25メートルをクロールで往復するスイマーが占領し、素人風情を寄せ付けない空気を漂わせていた。
生きるか死ぬか、誰もが刀の柄に手を乗せる戦乱の世で、のほほんと優雅な茶会を開くようなものだ。
上級者向けだしと、ビート板を脇に抱えたリオがそんな殺伐としたコースに入るはずもなく、ロープで仕切られた端のコースに
そそくさと向かった。
眼鏡が無いことは眼鏡っ娘であるリオにはもどかしい。いつも見えている世界がぼんやりとしか写らないからだ。
だからか、塩素のにおいと激しい水しぶきの音が異様にはっきりと聞こえる。
そっとプールサイドに腰掛けた浜辺のウサギの足が生暖かい水に浸る。ゆらゆらと揺れる水面がひざ小僧をなぞり、
合わせた太ももをじわりと濡らす。なんだか不安になる気持ちは何故だろうと、リオは薄い手ですくった水をそんなに
大きくない胸に掛ける。リオの体を包み込む濃紺のスクール水着がぴっちりと体に吸い付く感触が胸を締め付ける。
ほんのちょっとの幼さと少女のはかなさを兼ね合わせたつやを放ったリオの肢体がするりと水中に吸い込まれた。
小さな水しぶきがリオの顎を濡らし、ゆらゆらと波立つ水面が胸をなぞる。
「遠いなぁ……」
たった25メートル。歩いて行けばなんともない距離なのに、プールというだけで途方もなく彼方に感じる。
ビート板を前方に突き出して、両腕をぴんと伸ばし、躊躇いつつも水面に顔を付けてスタートを切る。
壁を蹴る両足が水中で軽くなったと同時に、物凄い勢いでバタ足を始めた。
くねりながらバタ足で進むウサギのリオ。長い耳が水面から突き出してゆっくりゆっくりと前方へと舵を取る。
「ぷはぁ!」
志半ばで終了。
遥かに遠い対岸が顔を滴り落ちる水で余計に歪んで見えた。
はあはあと肺を突き破りそうなぐらいに荒い呼吸、口に入る液体がむせ返り、たらりと口角から流れ落ちる。
「ぐるぢいよぉ……」
こんなときに自分の側に素敵な男子がいてくれたら。
ぎゅっと厚い胸板に飛び込んで包み込まれたいし。
出来ることなら眼鏡が似合って、ほんの少しドSな理系男子なんぞよかろう。
「端から誰かに頼ろうだなんて、とんだ王女さま気取りだな」
「泣き顔を隠そうとして水をかぶっても無駄だぞ」
(うるさいよっ。ばーかばーか)
いもしないドS男子の幻覚をつんつんと人差し指で突いて朦朧としたなか妄想に耽っていると、隣のコースの
がっつりスイマーがばんばんと水しぶき立ててリオを追い抜いていた。
現実かあ……。
眩しい太陽の光があれば目をつぶる理由が出来たのに、残念ながら屋内プールではそんな淡い期待も泡と消える。
何度も何度も足を着きながらようやく対岸にたどり着いた頃には、小学生たちの声がきんきんに響いていた。
彼女らの声を耳にしているリオは荒くも激しい息遣いで濡れたスクール水着の脇腹をを指で弾いた。
#
ふらふらと心地好い疲労に苛まれたリオがロビーに立ち寄ると、犬上ヒカルはいまだに本を読んでいた。
とっくに乾ききった髪の毛をまた濡らしやろうかと、リオはヒカルに近付くと、目の前のテーブルに食べかけのわらび餅の容器が
置いてあることに気付いた。透明感溢れるわらび餅、控え目さとわびさびが憎いきな粉。水色とのコントラストが主張の無い甘さを
引き立てている。
きっと、食感は絶妙なんだろう。コンビニなんかのものよりも歯ごたえが本格派らしいし。
「美味しかった?」
「……」
「ごめん、いいトコなんだよね。本」
返事をしなかった理由はそれじゃないと言いたげに、ページをめくる手を止めたヒカルがリオを見上げた。
乾ききらないリオの体からは塩素と甘い汗のにおいで淡い水色の香りがしていた。
制服姿と違うリオの姿に僅かなる罪悪感を抱きつつ、ヒカルはぱたりと栞を挟んで本を置いた。
「美味しそうだよね、わらび餅。ぷるぷるぷるんって」
「うん」
「あーあ。誰かわたしにわらび餅おごってくんないかなあ」
目の前にいるのは眼鏡でもなく、理系でもなく、ドSでもないただの文学少年だ。
なのに期待を寄せて、恥じらいもない悪あがきをするリオの頬は微かに赤い。まるでビート板を頼りにバタ足で進む
スクール水着の少女みたいだ。
「あ」
立ち上がったヒカルの腕を慌てたリオが引っ張る。
いや、まじに受け取られちゃ。
空気ってもんがあるじゃない。
それに……彼氏じゃないんだから、おごってくれなくてもいーし。
「犬上っ」
と、リオが声をあげると、ヒカルの目の前のわらび餅がすっと浮かんだ。
リオとは全く面識のない男がヒカルの前に座り、食べかけのわらび餅を再び口にしていた。
「因幡が美味しそうに言うから、食べたくなったし」
ヒカルはそう言い残すと市民プール玄関前のわらび餅移動販売のリアカーに駆けた。
ヒカルの背後のリオは、ぽんとキックをお見舞いしようと脚を上げたが空振りに終わった。
#
水泳の帰りの電車は眠気を誘う。
雲の上のような揺れ具合は、乳酸の溜まった体に睡魔を召喚させる呪いのようだ。
とくに高架を走る私鉄線の車窓が催眠のための効果を高める。
「……食べときゃ良かったかなー」
意地を張って、ヒカルが買ってきたわらび餅を拒んだ。
ぷるぷると弾けるわらび餅が無駄に美味しそうだった。
きな粉の甘さが手招きしていた。
だけど、彼氏じゃねーし、わたしそんなに乾いてないし。
リオがかけていた眼鏡を外してみると、ぼんやり車窓に映った自分の姿が浮かんでいた。まるで自分が空を飛んでいるみたいだ。
なんだか、この景色、リフレイン。
そうだ、プールの中だ。
遥か遠く25メートル先の対岸目指してバタ足していたプールの中。
「勘違いも甚だしいぞ。おごってもらえると思うな」
(おごってなんて言ってないしー)
リオは電車の中でも素敵なドS男子が側にいてくれたらなと、一人妄想をしていた。
きっとコンビニのわらび餅は甘い。
おしまい。
メガネなしのいいんちょって、初めて描いた気がする。
これもアリじゃないのか?異論は認める。
投下おわり。 スク水は子猫組に許された特権かと思ったけどリオのもいいね!
控えめな身体に映えそう
塩素の香りが漂ってきそうなよいSSでした
NHKビデオ金銭ミルクGALコンチネンタル中東パクキン沖縄海焼きそば 西村ニューヨーク反省会ファミレス深夜ランチおしゃべり問題
NHKビデオ金銭ミルクGALコンチネンタル中東パクキン沖縄海焼きそば 西村ニューヨーク反省会ファミレス深夜ランチおしゃべり問題
NHKビデオ金銭ミルクGALコンチネンタル中東パクキン沖縄海焼きそば 西村ニューヨーク反省会ファミレス深夜ランチおしゃべり問題
初期からいた絵師さんどうしてるのかな。
むちむちかわいい絵の。
早く冷たいかき氷を食べたいニャと、サンダルを鳴らしてコレッタは自宅の扉を開けた。
こんな日のおやつはかき氷一択だ。夏休みも折り返し、盛夏の街も眩しいぐらい。子猫のコレッタの白い毛並みがきらきらと、
錦糸のようなブロンドの髪もさらさらと。暑いのはやっぱり苦手だニャ、早く冷房の効いたリビングでぐたっと平たくなりたいニャと、
重い足を玄関へ一歩差し出す。
待ちわびたかの勢いで廊下の奥から飛び出してきたのは、コレッタと同じ毛並みに同じ髪を持つコレッタの母だった。
「おかえりなさいー!コレッタちゃん!お風呂にする?おやつにする?それとも『お、か、あ、さ、ん』?」
「おやつニャ!」
ニャニャ?!
何のどっきりニャ?
今までのぐったりコレッタは速攻切り上げて、コレッタの母の脇を稲妻走るスピードでリビングへと駆け抜けていったコレッタ。
振り返り様に我が子のリアクションに戸惑うコレッタの母は、腰に巻いたエプロンをずりあげていた。
「夏休みっぽいコスチュームだったのに、コレッタちゃん、気に入らなかったのかなぁ……」
これでも結構気合い入れてゼッケン書いたんだよ?
十ンー年振りのスクール水着、オトナかわいくエプロンまでオプションしたのに。
開けたままの玄関からは、灰色の表の世界の彼方、落ち着いた風が流れ込んできた。
ひんやりとしたリビングでコレッタはアザラシになっていた。
エアコンからの丁度よいぐらいの冷風が火照った体を包み込む。やれやれこれは天国の居心地でコレッタが母のスマホを
ぐりぐりと扱っていると、母が戻ってくる足音を聞き顔を曇らせた。
「あんまり使い過ぎちゃだめよー」
「ニャ、ニャ?」
「どうしたの?」
「花火大会はあしたニャね……」
スマホの画面には夜空に花咲いた色とりどりの花火が描かれていた。明日は街の花火大会。池を囲んだ公園で、毎年行われる風物詩だ。
ただ、心配事がコレッタの猫耳に付きまとう。窓がそれを示すように。
「いけない!雨が降ってきたよ!」
ぱらぱらと雨粒がテラスを濡らし、じわじわと軒先の洗濯物を湿らせてゆくお天気テロ。
コレッタの母は目を丸くして、洗濯物を取り込みに走った。
「ぬれちゃうニャ!早く!」
「大丈夫よ!スクール水着、着てるから!」
母の返事を気に止めずに、コレッタは洗濯物を取り込む加勢に没頭した。
早く冷たいかき氷を食べたいニャと、サンダルを鳴らしてコレッタは自宅の扉を開けた。
こんな日のおやつはかき氷一択だ。夏休みも折り返し、盛夏の街も眩しいぐらい。子猫のコレッタの白い毛並みがきらきらと、
錦糸のようなブロンドの髪もさらさらと。暑いのはやっぱり苦手だニャ、早く冷房の効いたリビングでぐたっと平たくなりたいニャと、
重い足を玄関へ一歩差し出す。
待ちわびたかの勢いで廊下の奥から飛び出してきたのは、コレッタと同じ毛並みに同じ髪を持つコレッタの母だった。
「おかえりなさいー!コレッタちゃん!お風呂にする?おやつにする?それとも『お、か、あ、さ、ん』?」
「おやつニャ!」
ニャニャ?!
何のどっきりニャ?
今までのぐったりコレッタは速攻切り上げて、コレッタの母の脇を稲妻走るスピードでリビングへと駆け抜けていったコレッタ。
振り返り様に我が子のリアクションに戸惑うコレッタの母は、腰に巻いたエプロンをずりあげていた。
「夏休みっぽいコスチュームだったのに、コレッタちゃん、気に入らなかったのかなぁ……」
これでも結構気合い入れてゼッケン書いたんだよ?
十ンー年振りのスクール水着、オトナかわいくエプロンまでオプションしたのに。
開けたままの玄関からは、灰色の表の世界の彼方、落ち着いた風が流れ込んできた。
ひんやりとしたリビングでコレッタはアザラシになっていた。
エアコンからの丁度よいぐらいの冷風が火照った体を包み込む。やれやれこれは天国の居心地でコレッタが母のスマホを
ぐりぐりと扱っていると、母が戻ってくる足音を聞き顔を曇らせた。
「あんまり使い過ぎちゃだめよー」
「ニャ、ニャ?」
「どうしたの?」
「花火大会はあしたニャね……」
スマホの画面には夜空に花咲いた色とりどりの花火が描かれていた。明日は街の花火大会。池を囲んだ公園で、毎年行われる風物詩だ。
ただ、心配事がコレッタの猫耳に付きまとう。窓がそれを示すように。
「いけない!雨が降ってきたよ!」
ぱらぱらと雨粒がテラスを濡らし、じわじわと軒先の洗濯物を湿らせてゆくお天気テロ。
コレッタの母は目を丸くして、洗濯物を取り込みに走った。
「ぬれちゃうニャ!早く!」
「大丈夫よ!スクール水着、着てるから!」
母の返事を気に止めずに、コレッタは洗濯物を取り込む加勢に没頭した。
#
翌日の夜は、期待以上の星空を披露してくれたから、コレッタと母は一等星の瞳で花火大会へと出掛けて行った。
池を囲んだ公園には近隣の人々で賑わいを見せて、ひと夏のうたかたなる思い出を刻む。
池の側はすこぶる涼しい。風が流れると子猫の袖をくすぐる。自然の悪気のないいたずらにコレッタは頬を赤らめた。
浴衣姿のコレッタはぴょんと跳び跳ねる。淡い桜色
「ヒカルくんニャ!」
金色も髪をなびかせて、とみに駆け出したコレッタは、犬の少年の尻尾に飛び付いた。猫とは違う、
豊穣の麦畑を思い起こさせる、犬の尻尾だ。すりすりとヒカルの尻尾に頬擦りしているコレッタをなだめる母は、
ヒカルの足元をさりげなく一瞥したのちに、オトナも会釈でヒカルに敬意を示した。
「コレッタちゃんがぼくと行きたいって言うんです」
「ウチのコレッタが申し訳ありません(靴はわりときれい目。第一チェックポイントOKね)」
「待たせてごめんね、コレッタ」
「とんでもありません(時間はきちっとしている。第二チェックポイントよしっ)」
ヒカルの背中に隠れたコレッタからは、細い尻尾が小枝の様相でしなった。
よくて兄妹、ヒカルとコレッタの間柄は歳の差ありすぎて、邪な妄想を掻き立てる余裕さえもあり得ない。
(コレッタちゃんだもんね。男の子を虜にしても不思議じゃないし)
コレッタの母はヒカルが背中に気を取られている合間を盗んで、ヒカルの下ろした手の甲に自分の手の甲を当ててみた。
びくっと、ヒカルの胸が鳴る音が雑踏の中で響く。
ノースリーブの二の腕が、半袖姿のヒカルに触れるか触れないかの距離であやふやと揺れていた。
わたし、ヒトヅマですけど、昔オンナノコでしたよ?
コレッタの母は、コレッタをそのまま大人にした可憐さに加えて、浴衣の艶やかさに花火の儚さを持った
夏の香りでヒカルの鼻腔をくすぐった。
わたし、ヒカルくんより年上ですけど?
でも、こんな夜は同い年になってもいいですよね?
勝手過ぎる妄想だが、ヒカルの脳内は淫らな桃色の霧で霞んでいた。
「お祈りしてよかったわぁ。花火日和ね」
「はい?」
「昨日、神社でお祈りしてきたんですよ」
昨日の夕方、うとうとと惰眠を貪ったコレッタだ。もしやと、母が雨の中、神社で祈る姿を思い浮かべた。
『あした、晴れニャすように』
きっと、そうかもニャ。コレッタはほんのちょっとだけ母を尊敬した。
さすがコレッタのおかあさんニャよ……とヒカルに対して自慢げな顔をしている娘の側から母がのたまう。
「『コレッタちゃんの素敵なボーイフレンドと出会えますように』って、ですよ」
「……」
「コレッタちゃんがしあわせになるなら、わたしなんでもするね。ヒカルくん、勘違いしちゃだめよ。ふふっ」
あどけない表情を見せる母をコレッタはオトナにも似た目線でじっと見ていた。
どーん、と一番の花火が場を繋いだ。
おしまい。
「それじゃ、犬上くんわたしと……」
おしまいです。
「そうはつ、6しゅう年だがニャ!」 兎宮かなめたんをお借りしました。
http://www19.atwiki.jp/jujin/pages/955.html
『月と吹き矢』
いい歳こいて、吹き矢遊びですか?
白衣を纏い、くたびれた七分袖のシャツを見せ隠れさせて、ひと尋強の細長い筒を握り締める。
中は空洞、一方には口を添える、真新しいマウスピースが装着されていた。
元・男の子、二十年ぐらい前は男の子。そんな血が騒ぐから、真面目のまー子の声など届かない。
化学教師と名を変えたもの、跳月十五・三十ンー歳を止めるのは、風紀委員長でも無理なこと。
「今日のの授業のことなんですけど」
「待ってくれ。ぼくは今、コイツに手を焼きたいんだ」
「生徒が聞いているんですよ?この授業の為に、朝から化学の教科書で何度も予習したのに、わからんちんです!」
「今日は早く仕事を済ませたい。何年に一度あるかないかなんだ」
跳月は書類にまみれた机の上にぽつんと置かれた一本の細長い筒を手に取った。
単純な構造の物体は、リオには意味なく見えても白衣が無駄に価値を付ける。
朝のテレビもそこそこに、跳月の授業にかけた熱が一気に冷却されてゆく。
「はづきちーっ」
もうちょっと話していたいのに、名前も知らない一本の筒が邪魔をする。
ガラクタにまみれた化学準備室は男の子の城だと言っても過言ではない。
グレーのペンキむき出しのスチール棚にずらりと並んだジャンク品の数々。使いどころを尋ねれば、いつかきっと使うで
済まされてしまうアバウトさ。とっておく理由はないけれど、捨てる理由だってないのだから。
天井に張り巡らされた蜘蛛の巣のようなコードの類。行く先、つながれた先など覚えちゃいない。
ニキシー管には陽炎のように数字が浮かび、オシロスコープの画面も『いつか出番が来るんだ』と、来るはずの無い活躍の時を待ち望む。
どこを引いても理系の巣窟にぽつんと飛び込んだ風紀委員長・因幡リオ。
見るからに文系。
ひいき目に見ても文系。
跳月との共通点はメガネなのかと、そこでやっとつながりを見つける。
「どこで手に入れたんですか」
「教えない。秘密だから」
「ケチ!」 答えなんか求めちゃいない。
リオは跳月の声だけ聞ければ満足だ。
でなければ、理屈だらけの機械の館に入る理由さえないんだから。
物珍しそうに吹き矢を視姦する跳月の目は本気だ。まるで、想い人を必死に口説き落とすような勢い。
「吹き矢は単純な構造ながら、攻撃力は物凄い。アルミニウムの缶を貫通させる威力を持つ」
「おもちゃじゃないですか」
「因幡は吹き矢のことを何も知らない」
漢字を並べた跳月は両手で吹き矢を鉄棒のように握って、小さな砲台の感触を楽しんでいた。
片方にはマウスピース。両手で口元に当てると、矢を充填し易いように手元に矢の代えが銃のレボルバーのように並ぶ。
どうしてこうも跳月が吹き矢に興味を示し始めたのか。リオは吹き矢の威力よりも跳月本人に興味があった。
理知的で、冷静で、オトナの魅力があるのに。
どうしてこうも、子どもっぽいのか。
オトナに憧れるリオは、歳の離れた跳月を兄のように見ていた。
「ん?」
「誰?ねえ、はづきち!」
「おい。入って来いよ」
跳月が少し開いた扉に向かって声を投げる。
小さな隙間から女子の瞳がちらりと。
リオは息を呑んだ。
「……あの、跳月先生」
「実に面白い。暗器としても利用価値がある」
「……返して」
「ああ。でも、中庭で吹くんじゃないぞ。兎宮」
レースのリボンで括ったポニーテールの髪揺らし、リオと同じウサギの耳を持った一人の少女がおどおどと化学準備室へと
足を踏み入れる瞬間、跳月の顔は少年の恥じらいの顔をそっと夕暮れの明かりとともに見せた。
「兎宮さん……」
「ひっ」
兎宮かなめ。
控えめで、引っ込み思案の激しい……そして、吹き矢が得意な女子高生だった。
放課後、ここまで愛機を取り返しにやってきた。と言うより、跳月に呼ばれてやって来た。
かなめが吹き矢を再び手中に取り戻し、ウサギのように跳ね返って部屋から出ようとした時のこと、跳月がオトナの声で呼び止めた。
「兎宮」
「はい?」
「ブースターを付けてみたい。初速度を加速させることで無装着状態で0.48ジュールだった運動エネルギーを倍にすることが可能だ」
「ほんとうですか」
「ああ。提案なんだが、今度ぼくにこれを貸してくれないか。もちろん悪いようにはしない。
その代わり、兎宮の所属するサバゲーチームの参謀として働く。全力を尽くすから」
「あ……ありがとうございます。跳月先生が居てくれれば、虎に翼です」
跳月とかなめの会話を傍で聞いていたリオは、黙って自分の通学バックを肩にかけていた。
自分がこの場に居ることが場違いであることを自覚しつつ、そっと化学準備室から遠のいた。
「さて、仕事を急ぐか。日の入りまでには終わらせなければ」
跳月の声だけを残して、リオは振り向かずに廊下を歩いた。
帰り道、夜の帳に浮かぶ月は迷いの無い丸さだった。
そんなやさしい光でも、リオの心は落ち着かなかった。
(はづきちのこと、かなめは何にもしらないくせに)
確かにリオは化学準備室の常連だ。私的公的どちらでもあの部屋には放課後居ることが多い。
落ち着くからか。はたまた……。
聞いたことの無いような単語をつらつらと交わしつつ、かなめの笑顔をかっさらった跳月。
そして、見せたことの無いような顔を跳月に見せていたかなめ。
「かなめだ」
まん丸な月に見守られて、かなめは公園のベンチで佇んでいた。
夕暮れがだんだん早くなり、ウサギたちも早々と物陰に隠れるのに都合がよい季節だ。
仕込み杖かと尋ねればそうではないと返されて、隙を見せるとびゅっと矢を叩き込むことなど朝飯前。
吹き矢を肩に掛けているからか緊張感のかけらを見せない兎宮からは、よく訓練されたスナイパーのオーラが漂っていた。
「ねえ。はづきちのどこが好きなの?」
「え……跳月先生のこと?」
「好きは言い過ぎた!」
同い年だからこそ、ちょっと悔しい。
スタートラインは違わないはずなのに、知らない間に付いてきたアドバンテージがリオを苦しめる。
「好きなの?吹き矢」
「いや……ちょっと、面白いかなぁって。ふぁあ……」
「眠い?」
「うん。昨日、遅くまで……銃器の手入れを」
跳月と出会う口実をむりくり作っているリオからすれば、単純なきっかけで跳月を饒舌にさせたことが腑に落ちなかった。
兎宮の返答にいい顔をしたくなかったリオはすくっと立ち上がり、夜空に浮かぶ白金の月を指差した。
「すごいよね、兎宮さん。かっこいいよ。もしかして、最強かも」
「因幡さん、わたし」
「わたしが兎宮さんならば、月を吹き矢で吹き落とす!そして、闇夜に乗じて『わたしを奪って』とはづ……」
リオが兎宮の表情を確認出来ないまま、兎宮はその場から矢のように立ち去った。
公園に残されたリオが瞬く月に腹を抱えて笑われていた。
自宅の窓から同じ月を眺めていたリオは人に見せられないぐらいの情けない顔をしていた。
「どうして、あんなこと言っちゃったんだろなぁ」
楽な寝巻き姿で外を眺めるていると、真面目のまー子ですら涙目の迷い子になってしまう。
兎宮は今頃何をしているのだろう。メールをしたくても、よく知らない子だし、いわんやSNSをや。
ただ、言えるのは見ている月が同じ音色で輝いていることを明日化学準備室で話せることだ。
いや、化学準備室に兎宮が来るという保証はない。だとすれば、リオはますます胸が痛んだ。
兎宮の真似をして吹き矢を発射させる態勢を取ってみる。多分、こんな感じ。流儀はきっとあるんだろうけど両手で筒を作り
口に当てて勢い良く息を吹きかけてみた。
「あ!?」
さっきまでうっすらと月光に照らされていた街が、一瞬で闇に落ちた。
まさか、本当に月が吹き落とされるなんて。
こんなことが出来るのは「兎宮さん……?」
いや。違う。
月蝕だ。
コンパスで描いたように美しい円形の星が、闇の魔王に蝕まれてゆく。
ゆっくりと下方から月が溶けてゆく。
月のウサギたちも突如やってきた夜の帳に右往左往。
そうえいば、月蝕だったよね。
ウサギが月のお祭りを忘れてどうする。
時間を忘れたリオが天体の戯れごとに気をとられていると、日中、跳月が口にしていたことを思い出した。
「何年に一度あるかないかなんだ」
きっと、跳月は眺めている。
月が暇を頂く姿を。
きっと、兎宮は夢の中。
野原で愛銃抱えて戦地に赴く夢を。
「そうだ」
明日は、この話をしよう。
兎宮とちょっと差が付いたことが嬉しくて、リオは冷えた体を温めるために暖かい布団に飛び込んだ。
「眠いや」
夜があってよかったと、きっと月だって喜んでるだろうし。
おしまい。
かわいすぎてこころぴょんぴょん
「もんげー!!」
今宵の白先生。
季節ネタです。
『委員長とチョコレート』
美味しいコーヒーの味わい方。
まずは手先が縮こまるぐらい寒い場所に行きましょう。
そして、はぁっと白い息を吐くのが良いでしょう。
熱々のコーヒーがカップ自販機から湯気を立てて現れる。大きめの紙コップには琥珀色の水面が揺れる。
芳ばしい香りで、学園の自販機コーナーはちょっとしたカフェテリアに様変わり。
委員会の仕事を終えた因幡リオは日の傾き始めた時間を一滴のコーヒーで潤わせようとしたものの、誤算によって
時間だけを消費することに奥歯を噛み締めていた。委員会の後の空がたそがれ色に滲む。
「あつー……」
予想外の温度に口をつけるだけでもやっとのこと。
竜のように湯気を立ち上らせている紙コップを侮ると、いたずらにリオのメガネだけを曇らせてゆく。
二月だから寒いのは当たり前、暖を取るためにちびちびと激熱のコーヒーを口にするのはリオが熱いものが苦手だからだ。
考え事すら回らずに、ニーソックスから覗かせるふとももに、ひゅうと如月の風が舞う。
めくれかかるスカートを抑える手などはそっちのけだった。
「リオ、お待たせー」
「待ってないよ。まだ残ってたんだ、モエったら」
芹沢モエという娘は北風ともすぐに仲良くなれる娘だ。だから、こんなに寒いのにけらけらと笑っていられる。
「図書館で調べものしてたらさ、こんな時間になってただけなんだけどさー」
モエのスクールバッグからは家庭的なタイトルの本が顔を覗かせていた。
リオは「時期的にねぇ」と、頷いた。委員会のことですっかり記憶の中から消え去っていたものがかたちをなしてゆく。
とろとろに溶けた液体が固まるように。
「誰にあげるの?モエ」
「予定は未定」
「義理でも?」
「バレンタインの流れに乗るしかないってねー。でもさ、図書館でお菓子の本探してもなかなか見つかんねーし、やっと見つけたしー」
自販機でコーヒーを購入しながらモエは愚痴めいた希望を呟いていた。
コーヒーが注ぎ終わった紙コップを手にしたモエが氷のごとく固まった。
「やっべー。こんな寒い日にアイスコーヒーなんてマジ拷問?」
ぼやきながらボタンを押したので間違えた。しゃりしゃりと細かな氷が浮かぶアイスコーヒーがミスキャストな灰色の空。
「そうだ。モエ、それちょうだい」
リオは冷え冷えのコーヒーを持つモエの手を握り締めると、自分の持つ熱々のアイスコーヒーへとコーヒーを注いだ。
これでいくらかましになると、リオは凍てつく頬が溶けかけた顔をしていた。
飲みやすい温度になったコーヒーを含むと幸せな時間がゆっくりと過ぎてゆく。
モエとこの時間を過ごせるのはあとどのくらい残されているのだろうか。だから大事に時を踏み締めるためにもう一口。
「どうしようかなー。あげる相手なんかいないし」
リオがかまってちゃんの名を借りる。
ウソだ。本当はいる。
だけど、相手は教師だった。堂々と言える訳がない。
モエはわざとすっとぼける。
「何を?」
「分かってるくせに。チョコレート」
「早く、バレンタイン過ぎないかなぁ。街はきっとリア充の巣窟だよ」
#
一週間が過ぎて。
委員会が終わった頃には雨が降っていた。土曜日は休みなのに春休みが近いからと登校しなければならないのは委員だから。
いつもと違う景色を見せてくれる校内は新鮮と言えば新鮮と言えよう。一雨ごとに春が近付いてくると思えば……などと、
季節を楽しむ余裕はリオにはなかった。
今日の委員会はどっと疲れが出る。
活発な意見交換もあったが、席の中央で仕切るリオのHPはすれすれまで削れていた。
「疲れたよー」
渡り廊下のコンクリからはアーモンドのような雨のにおいが漂っていた。
いつもの自販機の前に立つとほっと気が緩むはずが、そうさせないのは暦のせいだ。
二月なかばになると世の乙女たちはせわしなくなるという。理由は聞くな。
もちろんリオだって恋する乙女の端くれだ。ただ、相手のハードルが高いだけ。たったそれだけで苦しい思いをするなんて。
こういうイベントは世の中を満喫して、リアルを充実に暮らす人たちの為のイベントなのだ。
むしろ、今日の日に委員会があってよかったと、チョコを幸せにする自信のないリオは密かに感謝した。
「あーあ」
自販機にコインを投入する音がリア充との断絶を意味するハサミに聞こえた。耳を塞ぎたいのを我慢して、
ホットコーヒーのボタンを押す。自販機の中で湯気立つコーヒーが注がれ始めると、リオはスクールバッグから
リボンの着いた小箱を誰にも見られないようにこっそり取り出した。
淡い色の包装紙を丁寧に剥がし、ふたを開けると小さなハート型のチョコレートが顔を出した。
今日の残りもあと六時間弱、そのままただの残り物になれ果てるぐらいならば、いっそ自分の手によって介錯するのがせめて。
コーヒーが注ぎ終わった合図の電子音を耳にしたリオは熱々のコーヒーにハート型のチョコレートを投入した。
吸い込まれるように沈んだチョコレートは琥珀色の泉を甘く仕立ていった。
「リオ!チョコでも食らえ!」
ふいに口元へと押し付けられる甘い感触。
これが愛しの○○ならばと妄想するも、残念ながら目の前にいたのは芹沢モエだった。
デコレーションされた茶色の板状のチョコがまっさらな形でモエの手のひらに収まっていた。
「あーあ。相手もいないのに本命チョコ作ったけど」
「本命チョコが生まれてきた理由がないよね」
「もう、リオでいいや」
不貞腐れたモエはぱっきりとチョコを二つに割ると、両手のふさがったリオの口へと押し込んだ。
疲れたハートとフィジカルにスイートなチョコが侵食し、回復の呪文が体内で唱えられる……も、気分は晴れなかった。
だって、校内から出ると街はリア充の巣窟だから。
「あれ。リオって、熱いの平気なの?」
湯気立つコーヒーカップをモエは覗き込んだ。リオが投げ入れたチョコの塊は自らの身を削りながら、コーヒーを甘く蕩けさせる。
「ってか、なんでモエは学校来てんの?」
「だって、街はリア充の巣窟だしー」
ぽりぽりとモエのチョコを齧っていたリオは口直しにコーヒーを口にすると、輪をかけた甘さが心を突き刺した。
おしまい。
>>259
わお!
>>262
リオ「わたしは真面目のまー子です!」
「陽が落ちるのが遅くなったね?」 コレッタママ「ね?コレッタちゃんも大きくなったら付けてみる?」
コレッタ「そのころには廃れてるニャ」
白先生「じゃ、今のうちに『例の紐』をつけるんだ!」
コレッタ「ニャ、にゃああああああ?」 例の紐。
ヒカルくんも男子高校生です。
5月6日はゴムの日です。
「ひとりでつけられるもん!」
ネパール地震『311』に発生・・・人工地震か!?
日本時間3時11分に発生した。地震波形が爆発型である。スパイクが2連発。
http://richardko shimizu.at.webry.info/201504/article_162.html
2015年5月11日に第2の『3・11人工地震』が計画されているという予測
世界のエリートと直接繋がりのある週刊エコノミストの表紙が気になります。
右下に11.3(3月11日)とその左横に11.5(5月11日)と書かれています。
左下の地球儀の中の日本地図が変だそうです。ふむ。近畿地方がない。
http://mizu8882.blog.fc2.com/blog-entry-457.html 家で不労所得的に稼げる方法など
参考までに、
⇒ 『武藤のムロイエウレ』 というHPで見ることができるらしいです。
グーグル検索⇒『武藤のムロイエウレ』"
PI39WHJ0HL
知り合いから教えてもらったパソコン一台でお金持ちになれるやり方
参考までに書いておきます
グーグルで検索するといいかも『ネットで稼ぐ方法 モニアレフヌノ』
8KFKH
中学生でもできるネットで稼げる情報とか
暇な人は見てみるといいかもしれません
いいことありますよーに『金持ちになる方法 羽山のサユレイザ』とはなんですかね
SA4
玉祥文と申します。
自作の獣人小説を宣伝します。
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桓嘯の友人若驅は、獣人の存在、命を産むことに疑問を持ちます。