イラン、同国初の軍事衛星を打ち上げ - 衛星打ち上げは通算5機目
ガーセド・ロケットと衛星ヌール
イランの宇宙開発の歩み
イラン革命防衛隊は2020年4月22日、同国初となる軍事衛星「ヌール(Nour)」の打ち上げに成功したと発表した。
米国も衛星が軌道に乗ったことを確認し、成功が裏付けられている。
打ち上げにはこれまで未確認の「ガーセド(Qased)」ロケットが使われた。イランはこれで通算5機目の衛星打ち上げ成功となった。
ガーセドイラン初の軍事衛星「ヌール」を搭載した「ガーセド」ロケットの打ち上げの様子 (C) Fars News Agency (CC BY 4.0)
ガーセド・ロケットと衛星ヌール
ヌールを搭載したガーセドは、テヘランの東にあるセムナーン州に位置する、シャーフルード・ミサイル試験場から離昇した。打ち上げ時刻は明らかになっていないが、22日12時50分ごろ(日本時間)と推測されている。
打ち上げ後、イランのメディアは打ち上げ成功と発表。その後、米国が高度426 x 444km、軌道傾斜角59.8度の軌道に衛星が乗っていることを確認し、成功が裏付けられている。
また現地時間23日には、革命防衛隊・航空宇宙部隊のハージーザーデ司令官が、「衛星ヌールが地球周回軌道に乗り、地球を周回して90分後、イラン北西部で信号を受信した」と明らかにした。
また、アマチュアのサテライト・ウォッチャーも、ヌールとみられる衛星から比較的強度の強い電波が出ていることを探知しており、衛星が機能している可能性は高い。
ガーセドは今回初めて存在が明らかになったロケットで、ガーセドとはペルシア語で「使者(Messenger)」を意味する。
イラン革命防衛隊に近いファールス通信によると、ガーセドは3段式ロケットで、液体ロケットと固体ロケットを組み合わせて構成されているという。
外見などから、1段目は同国の中距離弾道ミサイル「シャハーブ3」を転用したものと考えられ、また2段目は固体ロケットであるとみられる。
また、ヌールが投入された軌道が、真円に近い円軌道であることからも、キック・モーターとして3段目を搭載していることがほぼ裏付けられている。
打ち上げ能力は不明だが、ロケットの規模などから、数十kg級の衛星を打ち上げられる能力があるとみられる。
イランはこれまで、同じくシャハーブ3を転用したと思われる「サフィール(Safir)」というロケットを運用してきた。ただ、サフィールは2段式で、また2段目は液体ロケットであるとされ、ガーセドとは大きな違いがみられる。
また、サフィールはイラン宇宙機関が運用しているが、ガーセドはイラン革命防衛隊が運用しており、打ち上げもこれまで使われてきた固定式発射台ではなく、ミサイルのように移動式発射台(TEL)から行われるなど、多くの違いがある。
ハージーザーデ司令官は、「ヌールは、大型で固定式の発射台を必要としないほか、非金属の材料、展開式ノズルといった技術を使用している」としている。
衛星のヌールについても詳細は明らかになっていない。ヌールとはペルシア語で「光」を意味する。
イラン革命防衛隊は「カメラを搭載している」としており、偵察衛星として位置づけられているとみられる。
また、ロケットのフェアリングに想像図らしきものが描かれており、それが正しいとするなら、6Uサイズのキューブサットであり、また展開式の太陽電池を搭載しているようである。
質量は、衛星の大きさや、ロケットの打ち上げ能力などから、およそ10〜15kgと推定される。
イスラム革命防衛隊のサラーミー総司令官は、「ヌールの打ち上げ成功により、わが国の防衛力の新たな側面が向上する」と主張している。
一方、米国宇宙軍司令官のジョン・レイモンド空軍大将は「宇宙で回転しているウェブカメラのようなものであり、重要な軍事情報を提供するとは考えられない」とコメントしている。
また、マイク・ポンペイオ米国務長官は、この打ち上げが「国連安保理決議違反に相当する」との見方を示した。
また、「これまでイランは、ロケット計画について軍事とは切り離されており、純粋に民間のものであると主張してきたが、以前から米国が指摘してきたように、それが偽りであることが証明されたと考えられる」ともコメントしている。
https://news.mynavi.jp/article/20200428-1025696/