ニュースメディアもニュースというプロダクトを制作、発信するという活動をする以上、経費がかかります。
一定の収入をあてにしなければ、継続的な報道ができません。
広告、寄付、出資、あるいは副業や資産運用などでメディアは資金を調達しています。
購読料、サブスクリプションというニュースの消費者が払うお金とは性格が違い、スポンサーから資金を得るということは、何らかの「借り」が発生するということです。
これを「利益相反」(コンフリクト・オブ・インタレスト Conflict of Interest)といいます。
メディアは次のニュースを発信するために一定の収益を上げなければならないため、避けられないことでもあります。
報道を継続していくためには、これをゼロにすることは、ほぼ不可能だと言えます。
しかし、その中でニュースの信頼を確保するためには、利益相反によってニュースの内容が影響を受ける可能性を限りなく低く抑える必要があります。
具体的には以下のようなことです。
1, 利益相反が存在する相手を公開し、どのような影響を受ける可能性があるかわかるようにする。
2, 利益相反を受ける可能性をなるべく小さくするための対策を取る。
3, そのような利益相反に関する考え方や対策に関して説明し公開する。
今回問題になったChoose Life Projectは一定の期間、立憲民主党から、かなりの規模の資金提供を受けていたことを公開していませんでした。
佐治共同代表の釈明では、2020年7月に法人化し、クラウドファンディングを開始した際に「立憲民主党からの資金提供のお願いを終了した」ため、新しい法人として必要なかったという判断だったと読めます。
しかし、法人化以前にも「Choose Life Project」と名乗っているなど連続性が認められるとしたら、視聴者にとって、その区別は意味を成しません。
大口の資金提供があったという情報公開は絶対に必要でした。
「立憲民主党という『政党から』カネを受け取っていたことが問題だ」という指摘も見られます。
しかし少なくとも運営資金などに関しては、そこは大きな問題ではありません。
例えば、地球環境保護や人権などをメインで扱うニュースメディアを標榜したとしたら、その趣旨に賛同する政党などから資金提供を受けても、あまり問題にはならないかもしれません。
むしろ伝統的なメディアのビジネスモデルが限界に来ている現在、ニュースの消費者ひとりひとりや、フィランソロフィーの思想からジャーナリズムに貢献しようという組織などが寄付などを通じて支援する仕組みが整うのは悪いことではないかもしれません。
寄付を行う主体が「政党だから」という理由だけで排除されることにはならないはずです。
それでも特定の政党からだけの資金提供では、コンテンツが、その政党が主張する政策を色濃く反映したものになってしまっているのではないか、と批判を受ける恐れは充分にあります。
しかし、そのような場合でも、複数の政党からバランス良く資金調達する対策も考えられなくはないでしょう。
CLPで資金調達をしていた人たちが、そうやってバランスを取れるかどうかの戦略を立てられなかったということです。
CLPは主に政治的なアジェンダを議論する番組づくりをしてきたと理解しています。
そうすると特定の政党からの資金援助はバランスを欠く、単にコンテンツの「商品価値」を下げる行為で、それはそれで残念なことではありますが、そういうメディアは「報道」としては見向きもされない(か特定の党派の人が大喜びする)だけで、批判せずとも市場から排除されていくでしょう。
むしろ、そのような「偏り」を隠して、政治的に中立を装っていたという、正直な情報公開をしなかったことが、視聴者への信頼を裏切る行為として、問題になっているのです。
CLPの佐治氏は「テレビや新聞などのマスメディアと異なり、ネットメディアについてはそれほど厳密な放送倫理の規定が適用されるわけではなく、政党や企業や団体からの資金の提供についてマスメディアであれば抵触するであろう各種法令は適応外であろうという認識でいました(原文ママ)」と釈明しています。
しかし、そもそもこのような「ニュースの消費者との約束」は法律に依拠するものではありません。
メディアがそれぞれ自ら「誓い」として、ニュースの消費者に示す、一方的なものです。
約束を守っても誉めてもらえるわけではありません。
しかし、守らないと読者や視聴者は失望し、あきれて離れていきます。
いざという時に発信したニュースが、手放しで信用してもらえるように、歯を食いしばって守り抜くという覚悟の表明なのです。
https://news.yahoo.co.jp/byline/okumuranobuyuki/20220108-00276372