
Streets of Philadelphia, Kensington Avenue, What’s going on Monday, July 26 2021
ダウンロード&関連動画>>
【9月4日 AFP】車を止める場所を見つける間にも、薬物を注射している男性が視界に入ってきた。暗い色のズボンをはき、スエットシャツの袖を半分たくし上げて腕を出したその男性は、ごみが散らかった歩道に立ち、体を揺らしながら腕に注射針を刺していた。
■米東部最大の屋外ドラッグ市場
私が車で到着したのは、ノースフィラデルフィア(North Philadelphia)のケンジントン(Kensington)地区。ここを訪れたのは、ラジオで聞いた話を追跡取材するためだ。線路沿い半マイル(約0.8キロ)にわたり米東部最大の屋外ドラッグ市場があると言われていた。
ヘロインの問題が深刻化しているこの地域の実態はどれだけひどいもので、未曽有の麻薬依存が広がっているか、メディアが半年おきぐらいに報じるほどだった。
かつては労働者階級が集まっていたこの地域が寂れて衰退していることには特に驚きはしなかった。だが、セカンドストリート(Second Street)橋の下をくぐると、そこには見たことのない世界が広がっていた。家庭や店舗から出た膨大なごみの山。その上にコケのように堆積した注射器の包装紙。そこかしこから、注射器がキラキラと輝く銀色のアザミの花のように突き出ている。
この荒れ果てた光景を背に、ほぼ男性ばかりのグループが間に合わせで作ったテーブルや椅子にかがむようにして、静脈注射薬を自分と仲間たちに打つ準備をしていた。長い路上生活で日焼けした人、ベッドで眠り、洗濯もできる境遇にいるおかげで小ざっぱりして見える人。
近くを通ると、不審な目を向けてくる人々もいた。胎児のように体を丸めながらうつろな表情でうろついている人々は、まさに歩くしかばねだった。樹脂が燃える臭いと人の排せつ物の異臭が鼻を突く。
後で知ったのだが、私が足を踏み入れたのは「病院」と呼ばれている場所だった。ここでは、薬物を打ち過ぎて手足の静脈が硬くなってしまった依存者が、料金を支払って、首などに薬物を注射してもらう場所だからだ。
集まっている多くは、依存性の高い鎮痛剤オピオイドの禁断症状──この辺りでは「ドープシック」と呼ばれている───を和らげようとする人々だった。ドープシックかどうかは、震えながら苦しげにうめいていることが多いため、すぐに分かる(大半が男性だ)。
私が近づくと、そこで行われていたいくつかの活動のペースが明らかに遅くなった。目に見えて空気が張り詰めたため、対立を避けるためにぐるっと周囲を回ってみることにした。線路沿いに土手の下を歩いていると、誰かに呼ばれた。話ができる人がいるのはありがたい。そう考え、ごみの中を慎重に歩きながら、ドラム缶の火の番をしていた若い男性に近寄った。
警察か、と尋ねた男性は、私が多くの人々から怪しまれていると教えてくれた。確かに、私は私服警官のように見えたかもしれない(私服警官には特有の「制服」があり、それはブーツにボタンダウンのシャツ、野球帽というスタイルだ)。状況を把握するまで黒い小型のバックパックにカメラを隠していたので、余計にそう見えたのだろう。
こうした取材の際に私がよくとる方法だ。最初の訪問でカメラを取り出すことはめったにない。ただ歩き回り、人と話し、場所の雰囲気をつかみ、こちらが取材をしていることを伝える。私になじんでもらい、相手のプライバシーや尊厳を冒さないようにするためだ。ある程度、リラックスした雰囲気が生まれたら、そこで初めてカメラを取り出して撮影を始める。
イカソース
https://www.afpbb.com/articles/fp/3140426