グミの日、13日の金曜日、パンダの妊娠……。株式市場で特定の「記念日」にネットの交流サイト(SNS)でバズった(話題が広まった)株が急騰する現象が相次いでいる。業績には直接関係がない材料でも、ネットで拡散すれば株価を動かす時代の到来だ。一見非合理にも映る新たな株価形成のメカニズムを、プロの機関投資家も無視できなくなっている。
9月3日「グミの日」を翌営業日に控えた8月31日。特段材料も見当たらない中、グミを主力商品とするカンロ株が6%高と突然動き出した。
3日当日は5%高。その夜にテレビ番組がグミの日を特集したのも手伝ってSNSの書き込みが拡散し、4日は値幅制限の上限(ストップ高水準)の16%高を演じた。「(株価上昇は)グミ効果ですか?」といった書き込みが目立った5日も9%高と勢いは続いた。
記念日のナゾの個別株の急騰劇が始まったのは2014年ごろだ。スマートフォン(スマホ)ゲーム開発のKLabが、同社の人気ゲーム「ラブライブ!」のキャラクターたちの誕生日に急騰することが14年に何度も続いた。ネット上で「誕生日投資法」という呼び名もつき、デイトレーダーらの話題をさらった。
その企業に全く関係がないこじつけで特定日に株価が動く例もある。
ディスカウントストアのジェーソンは、ホラー映画「13日の金曜日」に登場するジェイソンと英語表記の社名が同じ。15年2月13日金曜日にSNSで同社株をはやす書き込みが相次ぎ、27%高の暴騰を演じた。その後、13日の金曜日が来る数日前から株価が先行して上げ、当日は売られるのが恒例になっている。
SNSが誘発する株価急騰を演出する個人は、どんな人たちなのか。
「街で目にした製品広告がSNSで話題になっており、商品が広く認知されていると思った」。都内の30歳代の男性投資家は今年、翻訳端末を販売するソースネクスト株で約200万円の利益を手にした。投資先企業に関連する書き込みは漏らさずチェックして投資判断に生かしている。
個人のデジタル武装も株価の増幅を大きくしている。AI(人工知能)を使った自動取引は機関投資家の専売特許だったが、今ではAIサービスが個人にも普及。SNSの解析を提供する無料サイトもあり、個人が大量の書き込みを投資に活用できるようになった。
特定の主体が情報を拡散させながら個別株を大きく動かす現象は昔からあった。1980年代までは「仕手筋」と呼ぶ集団が仕込んだ銘柄をセミナーや電話で一般の人に推奨したり、証券会社が特定の銘柄を全店舗で一斉に販売したりする行為が繰り返されてきた。
個人にSNSが普及した今は誰もが情報の発信者になれる。さらに電話などで時間をかけて情報が広がった昔と違い「情報が株価に織り込まれるスピードが格段に速くなった」(ニッセイ基礎研究所の井出真吾氏)。
合理的な判断を重視する機関投資家の影響力が大きい大型株ではこうした現象が起きることはまれだが、中小型株も組み入れる機関投資家の中にはSNSの分析を取り入れる動きも出始めた。
ヤフーが出資するアストマックス投信投資顧問の日本株投資信託「Yjamプラス!」(残高約330億円)は、金融情報サイト「ヤフーファイナンス」上の投稿や配信ニュースなどのビッグデータをAIで解析。銘柄選別や売買タイミングの判断に活用している。
「カシオ計算機や青山商事は3月第1週、協和エクシオは12月第3週に上昇しやすい」。AIは膨大な書き込みの傾向を分析したうえで、いくつかの銘柄の動きに季節性があるとの結論を導き出した。こうした銘柄をタイミング良く売買し、ファンドは16年末の設定以来、株価指数を超えるリターンを出している。
経済学者のケインズは株式投資を「美人投票」にたとえた。短期的には自分が上がると考える銘柄ではなく、多くの人が上がると考える銘柄に投資した人が勝つという意味だ。SNSが誘導する「バズり銘柄」の乱舞は、誰もが美人投票の結果をスマホで手軽に推測できるようになった市場の必然かもしれない。(増田咲紀、野口和弘)
2018/9/21 12:00
日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35572800Q8A920C1920M00/
9月3日「グミの日」を翌営業日に控えた8月31日。特段材料も見当たらない中、グミを主力商品とするカンロ株が6%高と突然動き出した。
3日当日は5%高。その夜にテレビ番組がグミの日を特集したのも手伝ってSNSの書き込みが拡散し、4日は値幅制限の上限(ストップ高水準)の16%高を演じた。「(株価上昇は)グミ効果ですか?」といった書き込みが目立った5日も9%高と勢いは続いた。
記念日のナゾの個別株の急騰劇が始まったのは2014年ごろだ。スマートフォン(スマホ)ゲーム開発のKLabが、同社の人気ゲーム「ラブライブ!」のキャラクターたちの誕生日に急騰することが14年に何度も続いた。ネット上で「誕生日投資法」という呼び名もつき、デイトレーダーらの話題をさらった。
その企業に全く関係がないこじつけで特定日に株価が動く例もある。
ディスカウントストアのジェーソンは、ホラー映画「13日の金曜日」に登場するジェイソンと英語表記の社名が同じ。15年2月13日金曜日にSNSで同社株をはやす書き込みが相次ぎ、27%高の暴騰を演じた。その後、13日の金曜日が来る数日前から株価が先行して上げ、当日は売られるのが恒例になっている。
SNSが誘発する株価急騰を演出する個人は、どんな人たちなのか。
「街で目にした製品広告がSNSで話題になっており、商品が広く認知されていると思った」。都内の30歳代の男性投資家は今年、翻訳端末を販売するソースネクスト株で約200万円の利益を手にした。投資先企業に関連する書き込みは漏らさずチェックして投資判断に生かしている。
個人のデジタル武装も株価の増幅を大きくしている。AI(人工知能)を使った自動取引は機関投資家の専売特許だったが、今ではAIサービスが個人にも普及。SNSの解析を提供する無料サイトもあり、個人が大量の書き込みを投資に活用できるようになった。
特定の主体が情報を拡散させながら個別株を大きく動かす現象は昔からあった。1980年代までは「仕手筋」と呼ぶ集団が仕込んだ銘柄をセミナーや電話で一般の人に推奨したり、証券会社が特定の銘柄を全店舗で一斉に販売したりする行為が繰り返されてきた。
個人にSNSが普及した今は誰もが情報の発信者になれる。さらに電話などで時間をかけて情報が広がった昔と違い「情報が株価に織り込まれるスピードが格段に速くなった」(ニッセイ基礎研究所の井出真吾氏)。
合理的な判断を重視する機関投資家の影響力が大きい大型株ではこうした現象が起きることはまれだが、中小型株も組み入れる機関投資家の中にはSNSの分析を取り入れる動きも出始めた。
ヤフーが出資するアストマックス投信投資顧問の日本株投資信託「Yjamプラス!」(残高約330億円)は、金融情報サイト「ヤフーファイナンス」上の投稿や配信ニュースなどのビッグデータをAIで解析。銘柄選別や売買タイミングの判断に活用している。
「カシオ計算機や青山商事は3月第1週、協和エクシオは12月第3週に上昇しやすい」。AIは膨大な書き込みの傾向を分析したうえで、いくつかの銘柄の動きに季節性があるとの結論を導き出した。こうした銘柄をタイミング良く売買し、ファンドは16年末の設定以来、株価指数を超えるリターンを出している。
経済学者のケインズは株式投資を「美人投票」にたとえた。短期的には自分が上がると考える銘柄ではなく、多くの人が上がると考える銘柄に投資した人が勝つという意味だ。SNSが誘導する「バズり銘柄」の乱舞は、誰もが美人投票の結果をスマホで手軽に推測できるようになった市場の必然かもしれない。(増田咲紀、野口和弘)
2018/9/21 12:00
日本経済新聞
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO35572800Q8A920C1920M00/