九大発のスタートアップに23億円投資
産業革新機構などが発表
2017年の国内の宇宙関連のスタートアップへの総投資額が過去最高の60億円を突破した。6日には九州大学発の
QPS研究所(福岡市、大西俊輔社長)に産業革新機構などが約23億5千万円を投資すると発表した。投資家や
ベンチャーキャピタル(VC)の宇宙産業への期待の高さがうかがえる。
「福岡から世界の宇宙産業にインパクトを与えていく」。6日、福岡県庁を表敬訪問したQPS研究所の大西社長は
福岡県の小川洋知事を前に語気を強めた。
QPS研究所は地球観測用の小型レーダー衛星を開発している。夜間や悪天候時でも地表の様子がとらえることが
できる「SAR」と呼ばれるレーダーのアンテナを備える。こうした小型衛星を開発するスタートアップは、これまでに
例がないという。軽量化を図り、開発や製造にかかるコストを「従来の衛星の100分の1に抑えた」(大西社長)。
産業革新機構などから調達した資金は衛星の開発や打ち上げ費用に充てる。20年3月までに2機を打ち上げるのを
手始めに、24年には36機が地球を周回する状況を目指す。実現すれば「ほぼリアルタイムに更新されるグーグルマップ
のようなものがつくれる」(大西社長)。渋滞予測や災害管理などへの活用が期待される。
政府は5月に発表した「宇宙産業ビジョン2030」において、30年代はじめに宇宙産業の市場規模を現在の2倍にあたる
2兆4千億円規模にする目標を定めた。「投資家が宇宙を身近に感じている」(三菱総合研究所の内田敦主任研究員)
7月には宇宙ごみ(デブリ)回収のアストロスケール(シンガポール、岡田光信最高経営責任者=CEO)が
ANAホールディングスや切削工具のOSGなどから約28億円を調達した。9月には衛星用アンテナの共有
(シェアリング)サービスを提供するインフォステラ(東京・渋谷、倉原直美社長)が約8億円の増資を実施、
欧州エアバスやソニー傘下のコーポレート・ベンチャーキャピタルなどが引き受けた。
アストロスケールは20年の事業化を目指し、18年春にもデブリの状況を観測する衛星を打ち上げる。インフォステラも
18年にアンテナシェアリングの実証実験を始める。ただ、両社とも宇宙事業で大きな実績を残しているわけではない。
事業化に届いていないVBに多額の投資が集まっている点について、日本総合研究所の斉田興哉マネジャーは
「まだ設立して間もない段階のスタートアップであることを考えると、過剰な投資だと思う」とくぎを刺す。
半面、これらのスタートアップが「重厚長大産業でなくとも宇宙にトライできるという新しい世界を開いた」(日本総研の斉田マネジャー)とも言える。成功や失敗に一喜一憂せずに、
じっくりと腰を据えた投資がスタートアップを育てる。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO2314946006112017X11000/