
http://www.sankei.com/column/news/180204/clm1802040007-n1.html
「妻が浮気」「トイレ詰まった」で110番…新聞は国民のモラル低下、しっかり伝えよ 元東京大学史料編纂所教授・酒井信彦
1月9日、昨年1〜11月における全国の110番通報の実態に関する警察庁の調査結果が発表された。それによると、全体の件数は820万6502件で、前年の同期より7万5733件(0.9%)減少したという。
ただし、そのうちの19.4%に当たる159万3478件は緊急性のない内容であった。前年同期より3万3448件減少したものの、それでも全体の約2割を占めているわけである。
具体例を紹介すると、「妻が浮気をしているようだ。帰りが遅い」「トイレが詰まっている」などの要望・苦情・相談が68万2896件▽「近くに24時間営業のガソリンスタンドはあるか」
「今日は何月何日ですか」など、各種照会が76万5960件−といった具合である。また「携帯電話の調子が悪くて、試しに通報してみた」というのもあったという。
主要6紙の取り上げ方を見ると、まず毎日新聞には記事自体が見られない。読売は第3社会面の横組みの記事で極めて簡略。見出しは全体の件数が減少したことを挙げ、緊急性のない通報に関しては全く出てこない。
他の4紙は緊急性のない通報に注目して、いずれも見出しに掲げている。ただし、記事の扱い方には相違がある。日経と東京は、第2社会面の右下の隅、朝日は総合5面の右下隅、産経は第3社会面のトップである。つまり産経が最も重視しているわけであり、記事の分量も多い。
新聞の役割としては、政治権力の監視が使命だとする新聞が多いようだが、社会に国民の意識を啓発することも、重要な使命ではないのか。緊急性のない110番通報がまだまだ多いということは、それだけ緊急の通報が阻害されるわけであって、重要な社会問題である。
新聞から独りよがりの偽善的な正義感を押し売りされるのは願い下げだが、国民のモラルを正すべきことには、積極的に主張してもよいのではないか。現代日本人のモラルのレベルは、問題にされながら改まらない「歩きスマホ」に見られるように、以前より後退していると思われる。
つまり国民に対するモラルの啓発は、巨大な情報発信力を握っている新聞にとって重要な責務であって、その意味で今回の産経の報道姿勢は評価できる。
朝日だけは他紙と異なって、人工知能や船の自動運転の記事と同じく、総合面に掲載しているが、純然たる社会問題を、なぜこう扱うのか、理解に苦しむ。それでは記事の持つ意味が読者に伝わらないだろう。