カジノを含む統合型リゾート(IR)実施法案を巡って、経済効果が地方に波及するかどうかが国会で論争になっている。
政府は法案で義務付けられた「送客機能施設」を通じて外国人客を観光地に誘導すると主張するが、運用は事業者任せで効果は未知数だ。議論が深まらないまま、参院の採決が近づく。
送客機能施設はIRの中核施設の一つで、IR来訪者に地方の観光地などへの訪問を促す。
安倍晋三首相は6日の参院本会議で「IRは世界と日本各地とをつなぐ交流のハブ(拠点)になる」「地域の活性化、日本全体の健全な経済成長につながる滞在型観光を推進する」と日本型IRの意義を訴えた。
ただ、送客機能施設の具体像はこれまでの国会論戦で明確になっていない。
それどころか政府の説明には、地元自治体や民間事業者の経営努力に委ねようとしている節さえある。
「日本各地の豊かな自然、固有の歴史、文化、伝統、食などの魅力を紹介する」(首相)、「各地の観光情報の提供やチケット手配など、観光旅行に必要なサービスを一元的に提供する」(石井啓一国土交通相)という政府答弁に、
野党は「旅行会社のカウンターみたいなものがあるだけではないのか」(立憲民主党の杉尾秀哉氏)と納得していない。
国民民主党の森田俊和氏は6月1日の衆院内閣委員会で「IRは客を囲い込んで長時間滞在させ、お金を落としてもらうビジネスモデルだ」と述べ、カジノでの収益を目指す事業者が、IRの外にも経済的な恩恵が及ぶように取り組む可能性は低いと指摘した。
今月13日の参院内閣委では、参考人の桜田照雄阪南大教授が「IRで地域経済を再生させようというのは極めて粗雑な議論だ」と述べた。
与党内にもIR実施法案への不満はくすぶる。
法案を担当する石井国交相と同じ公明党の熊野正士氏は12日の参院内閣委で「実際にどうやって観光客を(周辺地域に)送るのか、イメージがわくように説明してほしい」と政府に注文を付けた。
自民党の江崎鉄磨前沖縄・北方担当相は「賭け事で金もうけする考えは間違っている」と公言し、6月の衆院本会議採決を欠席した。
そもそも、政府はIRをどこに立地するかが決まっていないことを理由に、外国人客の割合や経済効果を明らかにしていない。
外国人客が少ないと、送客機能施設を作っても地方への波及効果は限定的になる。
鳥畑与一静岡大教授は13日の参院内閣委で「ラスベガスでさえ外国人客の割合は16%。日本型IRが外国人客を呼び込むのは無理だ」との見解を示した。【浜中慎哉】
https://mainichi.jp/articles/20180717/k00/00m/010/085000c