次世代電池の基本戦略 経産省が誤りを認めたわけ
「全固体電池」の夢を美化しすぎて異例の反省表明に至るも、電池産業崩壊の危機が迫る
経済産業省の蓄電池政策をめぐる文書が話題になっている。それは今年3月に開かれた「蓄電池産業戦略検討官民協議会」に提出された資料(以下、本稿では「文書」と表記)で、蓄電池政策の基本戦略が誤っていたことを率直に認める内容だったからだ。
中韓企業がリチウムイオン電池で日本を逆転
文書は「これまでの政策に対する反省」という見出しの下、以下のように述べている。
「これまでの蓄電池政策は、将来のゲームチェンジにつながると言われる全固体電池の開発に集中投資し、次世代技術で蓄電池産業を維持・拡大していくことを基本戦略としていた。他方、現在主流のリチウムイオン蓄電池は、政府の強力支援を得た中国や韓国企業がコスト面も含む国際競争力で日本を逆転。競争が激化している」
電池国別シェア
拡大車載用リチウムイオン電池の国別シェア(数字は%)=経産省の官民協議会資料より
分かりやすく言えば、日本が官民あげて次世代型の全固体電池の開発に取り組んでいる間に、中韓企業はEVやスマホで使われるリチウムイオン電池の品質と生産能力を強化し、日本の世界シェアを奪ってしまった、というのである。
2015年と20年を比較した円グラフで分かるように、リチウムイオン電池の日本勢の世界シェアは、2015年には40.2%でトップだったが、わずか5年で半分の21.1%に減り3位に転落した。
全固体電池の将来性に賭けた経産省
「反省」に至る背景を少し説明しておこう。
リチウムイオン電池は、2019年に吉野彰氏(旭化成・名誉フェロー)がノーベル化学賞を受賞したことから分るように、技術開発力やシェアの点で日本がリードしていた。
ただ、同電池は電解液が燃えやすく、引火や液漏れのリスクがある。EVでは充電時間が長くかかるほか、蓄電池の体積が車内空間を狭めてしまう欠点がある。
一方、次世代型の全固体電池は電解質が個体で燃えにくく安全性が高い。正負の電極を絶縁するセパレーターや冷却装置が不要であり、エネルギー密度が高いのでEVの航続距離を延ばす切り札になる。
そこで経産省は中韓より一歩先を行こうと、将来性のある全固体電池の開発に数千億円の補助金を想定して支援に乗り出したのだ。
本格的な実用化は計画より10年遅れ
実際の開発は物質・材料研究機構がトヨタなど民間企業10社と組んでプロジェクトを進めている。
2020年ごろの計画では、化学・金属などの素材メーカーが21年には固体電解質の生産を始め、同年にはトヨタが先頭を切って試作車を発表、20年代前半には実用化するという計画だった(日産の実用化は28年を予定)。
ところが、電池の性能向上のカギとなる固体材料の温度管理など技術開発が予想以上に難航。まだ課題が残り量産技術を確立できていない。
その結果、本格的な実用化は2030年ごろになる見通しだ。当初の計画より10年近く遅れることになる。
次は→実用化の前に日本企業は疲弊し撤退の可能性
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