「高度プロフェッショナル制度」が当初の説明とかけ離れた実態に 過労死ライン超えも 安倍元首相の主導で導入
専門職の人の労働時間規制を外す高度プロフェッショナル制度が、導入を主導した安倍晋三元首相らの当時の説明と懸け離れた運用になっている。経験が浅く希望もしていない人が高プロを適用された疑念が直近の調査で浮上。当時も今も所管の厚生労働相を務める加藤勝信氏は、当初の説明通りになっていない実態を指摘されても正面から答えず、制度を見直さない姿勢を示した。(池尾伸一、写真も)
高度プロフェッショナル制度 証券トレーダー、コンサルタントなど5業種の年収1075万円以上の社員を対象に労働時間の上限規制を外す制度。安倍晋三政権が政治主導で立案、過労死遺族や労働組合は「過労死を増やす」と反対したが2019年4月に導入された。今年3月末時点で21社22職場で665人に適用。2カ所の職場で在社時間と社外の労働時間の合計が月間400時間以上に達し、「過労死ライン」(残業含む労働時間月約273時間)を大幅に上回る人がいたことが判明した。
「高い交渉力を有する高度専門職に限って、自律的な働き方を可能とする制度」。2018年6月の国会で安倍氏はこう説明していた。高プロは残業上限などの規制をなくす制度で、弱い立場の社員だと無理に同意させられ、長時間労働を強いられかねないからだ。
ところが厚労省自身が今年初めに行った適用者へのアンケート(回答者254人)では、44.9%の人が前の会社での経験も含めた対象業務の経験年数は「3年未満」と回答。経験の浅い人が多い実態が鮮明だった。適用の際の本人同意も「なければ適用できない」と加藤氏は当時説明していたが、本紙が8月13日に報じた通り13.4%は「(適用を)希望していない」と回答した。
本紙は会見で加藤氏に、当初説明通りの運用になっていないことへの見解をただした。加藤氏は「経験3年未満」について、「新卒でも高度な仕事をする人はいる」と強弁。本人が希望していなかった問題には「(適用)期間中でも取りやめることは可能」とかわし、正面から答えなかった。
健康確保策については、加藤氏は当時の国会で「(労働時間が)一定以上にならぬよう健康確保措置をしっかり盛り込んだ」と強調。しかし厚労省が制度導入企業に聞いた調査では昨年度、在社時間と社外での労働時間の合計「健康管理時間」が、一般労働者の「過労死ライン」と呼ばれる労働時間を上回るケースが続出したことが判明した。
長時間労働を助長する懸念は現実になっていると本紙が質問したところ、加藤氏は「趣旨に沿わない運用がなされないよう(労働基準監督署が)しっかり監督指導する」と説明した上で「適用者の8割は満足している」と制度を擁護した。
高プロ導入の経緯をウオッチしてきた上西充子法政大教授は「加藤氏は指導で歯止めを掛けられるように印象付けるが、入社1年目の若者が月400時間の働き方を強いられても、法律通り同意を書面で得て健康確保措置をしているなら、法の規定を踏み越えた指導は困難。そこに高プロ制度の本当の危険性がある」と指摘。制度自体の見直しの必要性を主張している。
東京新聞 2022年9月26日 06時00分
https://www.tokyo-np.co.jp/article/204671