大気中の二酸化炭素が増えれば地球温暖化は進んでしまう。だから、私たちはできるだけ二酸化炭素を排出しない暮らしをしよう。これが世界の流れだ。だが、地球温暖化の進み具合は、二酸化炭素だけで決まるわけではない。健康被害などを抑えるために工場や自動車などから出る大気汚染物質を減らすと、地球温暖化を進めてしまう場合があることが、最近の研究でかなり細かくわかってきた。
■地球の気候を狂わすのは二酸化炭素だけではない
地球は、太陽から来る光で温められている。その光は大気中で熱に変わって蓄えられ、温まった地面もまた大気に熱を渡し、太陽から来た熱と同じ量の熱が宇宙に出ていく。そのバランスで地球の気温は決まる。大気中に二酸化炭素が増えると、大気の最下層である「対流圏」にたまる熱が増え、私たちが暮らしている地表付近の気温は高くなる。対流圏の上にある「成層圏」の気温は下がる。これが地球温暖化だ。熱のたまり具合のバランスが崩れるのだ。
このように地球本来の熱のバランスを崩す大気中の物質は、二酸化炭素だけではない。工場の煙突などから出る黒い小さなすすは、大気中に浮遊していると、太陽光を吸収して大気を暖める。石油を燃やしたときなどに発生する硫酸成分が変化した「硫酸塩(りゅうさんえん)」とよばれる粒子のグループも、太陽からの光を遮って、やはり大気中の熱のバランスを変えてしまう。物の燃焼で生ずる硝酸成分による「硝酸塩(しょうさんえん)」も同様だ。
■近い将来の温暖化抑制で注目される大気汚染物質
黒いすすや硫酸塩、硝酸塩は、健康被害をもたらす大気汚染物質だ。日本などの先進国では排出を抑える対策が進んできたが、途上国ではまだまだだ。世界保健機関(WHO)は2018年5月、世界の人口の9割がこうした汚れた空気を吸っており、それによる死者は年間700万人にのぼっていると発表した。だから、大気汚染物質は世界的に削減が求められている。当然のことだ。
その一方で、これらの大気汚染物質は「短寿命気候汚染物質」でもある。短寿命気候汚染物質とは、地球温暖化に影響を与える大気中の物質のうちで、大気中にとどまる時間が比較的短いものを指す。二酸化炭素は、いちど大気中に出てしまうと、数十年にわたって大気中にとどまる。こちらは「長寿命」の温室効果ガスだ。一方、小さなすすや硫酸塩などは、いったん大気中に放出されても、数日からせいぜい10年くらいの短期間で大気からなくなってしまう。雨で洗い流されたり、自分の重さで落ちたりするためだ。
このさき50年、100年といった遠い将来を考えた場合、地球温暖化の抑制にもっとも大きな効果があるのは二酸化炭素の排出削減だ。しかし、2040年前後には、二酸化炭素の排出量にかかわらず、産業革命前に比べて、いったんは2度くらい気温が上昇してしまうと予測されている。気温が2度上がれば、日本周辺では強い雨の激しさが1割増しになるという研究結果もある。気象災害に直結しかねない近未来の「2度上昇」を抑えるには、即効性がある「短寿命」気候汚染物質のコントロールが有力な選択肢になる。
■大気汚染対策が温暖化を進めてしまう
大気汚染物質が気候をも「汚染」するなら、それを取り除いて一挙両得――。話はそう単純ではないらしい。健康への悪影響などを考えてすすや硫酸塩、硝酸塩などを減らすと地球温暖化は進んでしまうことが、最近の研究でわかってきた。大気汚染の解決と地球温暖化の抑制が両立しないという「不都合な真実」がみえてきたのだ。
九州大学応用力学研究所の竹村俊彦(たけむら としひこ)教授らの研究グループは、世界のどこで、どれくらいの量の大気汚染物質が発生しているかを推定したデータをもとに、将来の地球温暖化の進み具合をコンピューターで予測した。その際、黒いすすや硫酸塩の量を増減させてみて、その気候への影響を調べた。
「黒いすす」を減らしても、温暖化抑制にはあまり役立たない
その結果で象徴的なのが「黒いすす」の影響だ。太陽光を吸収する黒いすすを減らしても、温暖化抑制の効果は思ったほど表れないようなのだ。
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SciencePortal
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